木ノ葉隠れ確立期、発展期編
-九尾襲来-
大きな満月の光が降り注ぎ、夜だというのに明るさまで感じる夜だった。
ヒルゼンの自室からそれを見上げながら、センリはクシナが無事に出産を終える事を願っていた。
『もう陣痛は来たかな……』
「どうでしょうな。人間の出産日は何故か満月の日が多いと言いますから、今日中には産まれる気がしますがのう」
開け放した窓からは十月の少し冷たい夜風が漂ってきている。
『満月の日と被っちゃうなんてなあ…マダラも里にいないし』
マダラは数日前に砂隠れに向かう為に木ノ葉を出ていた。
「それは仕方ありませぬ。四代目風影直々のご指名ですから」
『ん…まあそうなんだけどね』
来年度行われる砂隠れと木ノ葉隠れを中心にした中忍選抜試験の内容確認の為にマダラが呼ばれていた。用心深い四代目風影は木ノ葉の里でも最も忍達からの信頼度の高い人物としてマダラを指名したのだ。
「里の忍達を何人も向かわせるよりマダラ様一人の方がよっぽど効率もいいですし」
『んん、確かにそうだね』
ヒルゼンの言った事にすぐに納得して頷くセンリ。
開け放した窓に近付いて外の空気を吸い込むと夜の匂いがセンリの鼻腔を掠めた。
本当に大きな満月だな、などと考えているとふっとセンリの第六感に何かが働きかけた。
『………ヒルゼン』
窓の外に目をやったまま里の遠くの方を見つめるセンリに気付いてヒルゼンも反応をする。
「どうかなされましたか?」
クシナの出産場所はどの辺りだったかとセンリは目を凝らす。
『………』
「!…まさか」
センリを見ていたヒルゼンだったがその身にも僅かな気配が訪れ、次に鳴き声のようなものが微かに聞こえてきた。
『…九喇嘛の鳴き声……!』
「クシナの封印が解けたのですか…!?」
ヒルゼンとセンリが焦りに顔を歪めて見合わせた瞬間、何かが爆発したかのような叫び声がすぐそこで聞こえてきた。
窓から見えたのは里のやや南よりの中心街で九本の長い尾をくねらせて雄叫びを上げている巨大な狐の姿だった。
『ヒルゼン!』
「すぐに現場に向かいまする!」
『分かった!こっちは指示を出しておくから!』
忍服を身に付けて万が一に備えていたヒルゼンがすぐにその場から姿を消した。
センリもすぐに建物の外に出る。
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