- ナノ -


木ノ葉隠れ確立期、発展期編

-新しい命-



問題はクシナの出産だった。


センリはクシナの妊娠が分かってからその様子を観察していたが、どうやら九喇嘛を封印するのに使っているエネルギーがどんどんと腹の中…つまり赤ん坊に集中していっていることが分かった。

クシナの出産予定日まで一ヶ月に迫り、それを踏まえて考えると、出産時には限りなく九喇嘛の封印が弱まってしまうという可能性が非常に高い。



「確かに、そのような事をミトが言っていたかもしれんな……人柱力が女の場合は、出産時に封印が解ける可能性がある、と……」


センリの説明を聞きながらマダラは顎に手を当て考えるように言った。



『封印されてる尾獣との関係にもよるだろうけど……』

「あの九尾では、確実に出てこようとするだろうな。アレは特に人間共を憎んでいる」

『九喇嘛と話せるのが一番いいんだけど…――』


センリは目を伏せた。
本来なら九喇嘛と直接相対し対話をするのが第一の希望としてあるが、それでもやはりセンリの記憶にある九喇嘛は、“里を襲うかもしれない”という危うさがあるのも事実だ。

身体の中にいるカルマが、クシナの妊娠が発覚した時には、「九喇嘛と話し合うのはもう少し後になるやもしれぬな…」と言っていたのをセンリは思い出した。



『(九喇嘛にも人を殺させたくないし、里の人にも九喇嘛を攻撃してほしくはない……カルマも「今は――」って言ってたし……)』


センリにとっては苦渋の決断ではあった。マダラはセンリが考え込む様子を静かに見ていた。いつかクシナが言ったように、マダラにはセンリの本音が、言葉無くとも伝わっていた。



『クシナがお産をする時は、ミナトに九喇嘛の封印を抑えてもらう事にするよ。』

「それがいいだろうな。お前とヒルゼンは万が一の為に里で待機し、俺もクシナの近くに着こう。その他にも周辺には護衛をつけた方がいいだろう。クシナにとっては気が散る要因になるかもしれんが…」

『そうだね。クシナにも集中してもらえるように場所も考えなきゃだね。それに、私も出産に立ち会った事は多くはないからね……立ち会い経験が多いビワコちゃんに手伝ってもらう事にするよ』



面と向かって言う事はないが、やはりどこか心配している様子のマダラを見てセンリは安心させるよう小さく笑みを浮かべた。



そしてクシナの出産まで目前に迫った時、センリはその旨を説明しに、ヒルゼンとその妻のビワコと共にミナト宅を訪れていた。



「もしもの事を考え、すまぬが里から少し離れた結界の中で出産してもらう事になった」

『ミナトは封印を抑える為に立ち会ってもらって、それからビワコちゃんと暗部の人が一人つくからね』

「分かりました」


ミナトがすぐに頷く。
ビワコはこれまでに何度も忍の出産に立ち会っている。その道のスペシャリストだ。クシナは少し不安そうだったが、センリは大丈夫だと笑顔を見せた。


「もちろん護衛も付けるが全てワシの直属の暗部じゃ。この事は一応極秘事項じゃからな」

「場所まではアチシが案内する。そろそろ移動を開始するえ!」

「あ、あの……センリは…?」


立ち上がろうとするビワコに向かっておずおずとクシナが言い、次にセンリを見上げた。


『私はヒルゼンと一緒に里で待機するから、立ち会えないんだ。でも大丈夫だよ!ミナトもずっと付いててくれるから』


センリはクシナの背中をトントンと叩いた。少し眉を下げながらもクシナは分かったと頷いた。


「センリ様は忙しい身故、アチシらでどうにか出産を乗り越えるんじゃ!四代目火影もおるなら、そこまで心配する事もない」


ビワコの言葉にセンリは苦笑して頷く。ミナトは意味ありげにセンリを見て、小さく頷いた。


間の悪いことに、クシナの予定日の夜は満月だ。その日に産まれるかは分からないが、センリにとっては少々心配の種になってしまった。
満月の日にチャクラを使えなくなる事は、火影であるミナトやヒルゼンには知らせていたが、クシナは知らなかった。ただミナトが共に立ち会うとなるならば、そこまで危惧はしなくても良いのではないかとも思っていた。



センリはミナトの自宅を出て、クシナとビワコを送り出す。


『大丈夫。里で待ってるから、元気な子を連れて戻ってきてね!』

「うう…ちょっと不安だけど、頑張るってばね。センリに早くこの子の顔を見せてあげたいから!」


大きくなった腹を撫でるクシナの顔を見上げて、センリは微笑んだ。センリもそっとクシナの腹を撫でた。次に会う時にはこの膨らみは、もうひとつの新たな命となっているのだろう。そう思うとセンリの心は期待と幸福感でいっぱいになった。



『無事に産まれてきてね、“ナルト”』



センリはクシナの腹を名残惜しそうに撫でて、その姿を見送った。



この時はまだ誰気付いていなかった。


運命の歯車が廻り出すのは突然で、そしてそれが狂ってしまうのも、いつでも唐突だ。


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