木ノ葉隠れ確立期、発展期編
-新しい命-
マダラの言っていた通り、今の里を生きる世代では二人が夫婦である事を知らない者も多かった。平穏が戻れば、センリは日中でも里内に出掛ける事も多々あったが、マダラは大体火影邸にいるか、そもそも任務に出ている時が殆どだ。特に幼い子ども達や一般人がその存在を知らないのは当然だった。
うちは一族だけはその括りには入らなかったが、それも当然と言えた。実質一族の当主を務めているフガクとてマダラには頭が上がらない。部隊長のマダラとセンリに対する姿勢を見れば、そこにどんな関係性があるのかは一目瞭然だった。
そんなうちは一族ともセンリの関係は続いていて、うちはの煎餅屋の忍でない老夫婦とでさえ、かれこれ六十年の付き合いだ。
その中でもセンリが自宅まで訪れる者は限られていたが、ミコトとフガクは内の一つだった。
大戦が始まった直後に産まれたイタチは、もう四歳になっていた。
産まれた時の容姿は、小さな頃のフガクに似ていると思っていたが、成長すると母親であるミコトの方に似てきていた。
凛々しくはあるが下手をすれば女児のようにも見える顔立ちで、ミコトとフガクの息子だという事が手に取るように分かるくらい、年に見合わぬ聡明さと思想を持っている幼児だった。
センリが家を訪れると毎度深く頭を下げて挨拶をして来る。センリは笑ってその頭を撫でながら、二人目の子どもを妊娠中のミコトと共に雑談をしたりした。
『予定日いつだっけ?』
「七月の末ですよ」
『そっかあ、早いなあ。あと四ヶ月くらいか』
センリは関心して言って『ちょっと触っていい?』とミコトの膨れた腹を優しく撫でた。温かく、その中で生命が動いていると思うと少し奇妙な感覚があった。
『イタチもお兄ちゃんかあ。いいなあ』
「?……センリさまも、兄弟がほしいのですか?」
四歳とは思えない程達者な口調でイタチが問いかけるとセンリはにっこりした。
『そうだなぁ、兄弟はいいよね。じゃあ、イタチのお姉ちゃんになろうかなあ…』
「本当ですか?」
イタチの目がキラッと輝き、年相応の笑みが浮かんだ。
『ふふっ、いいよいいよ!ねぇ、ミコト?』
「あら…センリ様のような素敵な方が娘だなんて、光栄です」
センリとイタチのやり取りにミコトが冗談っぽく付け足す。
『そうなるとフガクがお父さんかあ………うううん、ちょっと怖いな』
「それは嘘です。父さんはセンリさまをそんけいしていますから。センリさまに対しては、全然、怖くありません」
大真面目に答えるイタチを見て、ミコトとセンリは顔を見合わせて笑った。
「そうね。お父さんは、センリ様の事を尊敬してるわね」
『ええ〜っ、そんな事に気付くなんて、イタチは凄いなあ!』
イタチは何故二人が笑っているのかわからずに首を傾げた。
「?」
『あっ、噂をすれば…』
ふとセンリが笑いを止めて玄関の方を見やる。イタチも同じようにそれを真似ると父が帰ってくる音が聞こえ、暫くして部屋の障子が開いた。
「おかえりなさい。早かったですね」
『「おかえりなさい」!』
ミコトに続いてセンリとイタチの声が重なり、フガクは僅かに笑みを浮かべ「ああ」と小さく呟いた。
「センリ様も一緒でしたか」
『うん!三人で楽しい話してたんだ!あ…いや、四人か!』
センリはミコトの腹を見て言い直す。
「どんな話ですか?」
『いや、それはね…秘密だよ、ね!』
「はい。私達四人の秘密です」
「……ひみつです」
センリの真似をしてミコトとイタチが言うのでフガクは微かに驚きの表情をしたが、すぐに微笑に変わった。
「…フフ……それは残念です」
『この子が産まれたら教えてあげるね!』
父にこうして砕けた話し方を出来る存在がセンリだけだとイタチは分かっていたがそれでも人前で表情を崩す父は珍しかった。
『それじゃ、私は行くね』
「えっ、もうですか?」
センリが立ち上がるとイタチが少し寂しそうな顔をしてセンリを見上げた。
「気を遣わなくてもいいんですよ」
フガクが帰ってきた事に気を遣っていると思ったミコトが言ったがセンリは首を横に振る。
『ううん、今日はマダラが先に帰ってきてるかもしれないから。夜に私がいないとマダラ、すっごい心配するからさ…』
「確かに、マダラ様はいつもセンリ様を心配なさっていますからね」
『そうそう。ホント、心配し過ぎなくらいにね……まあそういう事だから、またね!イタチも』
センリは屈んでイタチの頭を撫でる。イタチは少し着恥ずかしそうに瞳を伏せていたが、されるがままになっていた。
「また、来てくださいね」
『ん!分かったよ』
センリは忙しい身である事を分かっていたイタチは控えめに言う。
『ミコトも、またね。フガクはまた……すぐに会うだろうけど』
「そうでしょうな」
「この子が産まれる前にまた来てくださいね」
センリは三人に小さく手を振って家を出た。
フガクの家は里の中心街より少し離れており、星が瞬く空を見てセンリは急ぎ足で自宅に向かった。
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