木ノ葉隠れ確立期、発展期編
-新しい命-
第三次忍界大戦が終息した年には、様々な変化も起きていた。
これ以降今の情勢を保っていれば、長らく戦争は起きないのではないかとマダラもセンリも踏んでいた。油断は一切出来ないが、現状では五大国の中で木ノ葉は優勢だ。この勢力が衰えなければ里内の平穏が崩れる事は無い。
しかし雲隠れの三代目だった雷影は、センリ達とビーらが対峙していたちょうどその頃他里の大軍勢から自里の忍を守る為に戦い、そして亡くなったとの情報も入っていた。
会って話をした間柄、センリは彼らの様子が気になったが、それでも雲隠れも戦争を続ける事は考えていないようだった。信じる他ない。
四代目火影の就任式も無事に終え、ミナトが本格的に里長として政治を始めた。
加藤ダンの姪であったシズネというくの一の子どもは、どこにいるかも分からない綱手に弟子入りをしたいと里を旅立ち、みたらしアンコという少女は大蛇丸に弟子入りを志願した。
その一方でクシナとミトの出身里である渦潮隠れが完全に壊滅し、最後まで国に留まっていた数人も、木ノ葉隠れやその他繋がりがある地へと散っていった。
それを歯切りに元々うちはより少なく、残っていた千手一族もその姓を隠し、人々の波に紛れるように消えて行った。千手一族はあまり一族の存続に拘らない忍が多く一族同士の婚姻が少なかった事、戦いもそこまで好んでいない者が多かった事も影響しているだろうとマダラは考えていた。
姓を隠そうが、守るべき木ノ葉隠れの里の民に変わりはない。センリもマダラもその状態を無理に変えるような事はしなかった。
多くはない数だったが、今回の戦争で新たに戦死者が増え、センリの自宅にある年間の暦手帳には人々の命日が数え切れない程書き込まれていた。
センリは大切な命日には欠かさず霊園を訪れ、花を手向けていた。木ノ葉にもいくつも霊園が出来て、その度にセンリは足を運び黙祷を捧げる。誰も見ていない、センリと死者の魂だけの時間だ。
『……!』
静かに目を瞑っていると気配を察知し、センリが振り返る。
『大蛇丸くん。何だか久しぶりだね』
深緑の上忍服を着た大蛇丸は、今回の大戦中は殆ど戦場では見かけなかった。蛇のように縦に切り込まれた瞳孔が少し懐かしく感じて、センリは微笑んだ。
「……戦争でまた犠牲者が出た」
大蛇丸はセンリから数歩離れたところから声を発した。
『うん………そうだね』
大蛇丸は無表情だったがセンリはそんな事を気にした様子も無く穏やかに言った。
「形あるものはいずれ朽ちる……あなたと違って、他の人間の命は永遠ではない。誰かと一度出会ってしまえば、次は別れるだけです。虚しいとは思いませんか」
少しとぼけたように大蛇丸を見ていたセンリだったが、何となく言いたい事は分かった。大蛇丸と会うのは毎回霊園だという気がして、センリは微かに口元に微笑を携えた。
『そうだね。私は老いないから、その分友達が死ぬところを何度も見ていかなきゃならない』
「……悲しい運命ですね」
本当に大蛇丸がそう思っているのか、自分を惨めだとバカにしているのか分からなかったが、センリは微笑んだ。
『でも…それでも私は生きるよ』
「………何故です?」
一瞬大蛇丸の瞳が鋭く光った。しかしセンリは微笑したままだ。
『出会いに終わりがあると分かっていても……ううん、だからこそ、私はそれまでを精一杯生きたい。友だちと、仲間と、家族と……それまでの間を一生懸命過ごしたい。出会いがあれば当然別れもある。でも出会っちゃったなら仕方ない!“ああ、この人ともいつか別れなきゃいけないんだな”って思うより、“だったらそれまでを悔いなく過ごしてやる”って思いたい。その人との時間を精一杯過ごしたい』
昔と同じだった。
センリの表情も声も心も、何一つくすんでいない。眩しすぎるくらいの思想から大蛇丸は目を背けた。
『形あるものはいずれ朽ちる……確かにそうかもしれない。だったら、形ないものは永遠に残す事もできる。人の意志は次の未来に繋がっていく。みんなの思いは、私の心に残る』
「…本当にあなたは、おかしな人ですね……」
呆れたような大蛇丸の言葉もセンリは気にしなかった。
「(あなたは気付いていない……知らないだけ…世の中の闇に…私の中の闇にも…)」
センリの無邪気な笑みを見て大蛇丸はもう覚悟を決めていた。
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