- ナノ -


木ノ葉隠れ確立期、発展期編

-神無毘橋の奇跡-



『ここにいて』

「は、はい」


崩れ落ちた土砂の傍にリンと気を失っているカカシを待機させ、オビトがいるであろう場所に向かう。


『(………この辺りか…)』


土砂で埋まった穴の上に手を当てると一点からオビトのチャクラを感じた。

リンは未だにセンリの言っていた事が信じられず、ただその行動を見つめていた。


『(よし…)』


センリは場所を確定し、右手に氷遁のチャクラを込める。銀色のチャクラがセンリの右手を覆い、それを地面の岩に向かって振り下ろした。ガガガガッと大きな音がして辺りに岩が砕けて飛び散る。


「!」


そんな事をしたらオビトまで傷付けてしまうのではないかとリンは焦ったが、センリはそれを止めなかった。

センリの姿が徐々に地面の岩の中に見えなくなり、岩が砕ける音だけがリンの耳に入る。


「……」


しばらくするとその音が止み、サッとセンリが姿を現した。


「!……オビト…!」


センリの腕の中にはオビトがいたが、その体の状態にリンは咄嗟に顔を背けた。

センリはオビトを地面に下ろし、すぐに体の状況を見る。

センリは、岩がオビトに崩れ落ちる直前に身体をチャクラで覆いっていた。同時に流れ出る血を止める役割も果たせるので、岩が崩れ落ちてきていたとは思えない程には、オビトの状態は良いものだったが、それも左半身のみだ。


『(息は……―――よし、してるな。この無くなった半身をどうにかすれば……)』


オビトの右半身は巨大な岩によって、無残に潰されていた。目を背けたくなるような状態だ。辛うじて人の形を保っているが、顔も右側は原型を留めていない。センリはまずオビトの崩れた顔に手をかざし、チャクラを放出した。



「センリ様……これではもう…」


リンが側にやって来て、オビトを見て絶望的に呟く。様々な怪我を治してきたリンでさえ、オビトから視線を逸らした。医療忍術を使ったとしてもオビトが助からない事は誰が見ても分かる程だ。
しかしセンリは手を止めず、リンに向かって優しく微笑んだ。


『大丈夫、助かるよ。岩が押し潰したおかげで、出血量も多くない。少しかかるかもしれないけど…―――』


センリはありったけのチャクラをオビトの身体に注ぎ込むように放った。センリの手の平から、髪をなびかせる程の白銀のチャクラが放出されて、思わずリンは目を細めた。


「…!」


突然周りの空気が変わった。心臓の辺りがふわりとあたたかくなるような、不思議な感覚がして、リンは咄嗟に自分の胸に手を当てた。


「(ウソ……か、顔が……)」


センリがかざした手の平の下からまるで新しく形成されたようにオビトの顔が現れていく。新たに、というよりは、まるで逆再生したかのように元に戻っているようだ。


『よし………次は身体の方…――オビト、頑張れ……あなたなら絶対大丈夫…』


抉られるように無くなっている腹回りに手を当てると、そこも元通りに治っていく。オビトの心拍もまだある状態だ。素早く形成する事が出来れば、問題はない。


『(臓器は少し複雑だから時間がかかるけれど……このオビトの心臓の動きなら、大丈夫なはず……)』


センリは目を瞑り、神経を集中させ、そしてありったけのチャクラをオビトに注ぎ込んだ。在るべき点と点を繋ぐように、有るべきもの有るべき場所に戻すように――センリは意識をその一点に集中させた。


「(これって……一体…)」


医療忍術では、ここまで人の体を元通りに治すことは出来ない。どうなっているのかリンには全く分からなかったが、驚嘆して見ているうちにオビトの体がどんどん元通りになっていった。


『(もう少し……)』


センリは最後にオビトの目の上に手をかざして唇を噛んだ。ここが再生されればもうオビトは大丈夫だ。それまでにオビトの心臓と呼吸が動きを続けてくれる事を願う。チャクラが一層センリの体から溢れだし、オビトを包み込む。


『………よし、これで大丈夫』


ボロボロの服はそのままだったが、オビトの体は完全に元に戻っていた。センリはオビトの首に手を当てて脈を確認する。


『うん…だんだん動きが戻ってきた……。呼吸も…――大丈夫だ。さすがオビトだ、本当にすごいよ、持ち堪えたね。じきに意識も戻るよ。しばらく入院きなきゃいけないけどね』


センリの笑顔を見て、安心からかリンの目から再び涙が溢れ出た。オビトが助かったという事を実感したのか、リンは嗚咽を漏らしながら泣いていた。


『リン、よく頑張ったね』

「っ…――!」


センリは、泣きじゃくるリンの頭を優しく撫で、そっと引き寄せた。優しい香りを感じると、途端に張り詰めた感情が崩れ落ち、リンは嗚咽を漏らして泣きじゃくった。相当無理をしていたのだろう。


「わた、――私……二人のっ、足を引っ張ってばっかりで――――っ!」

『そんな事ないよ。リンはオビトの目を、カカシに移植してくれたんでしょ?オビトがきっと、そうお願いしたんだよね。リンは、ちゃんと、その時にやれる事を精一杯やった。そして二人を――二人の思いを、繋げてくれた。きっと二人は、リンに感謝してると思うよ』

っ……―――っ――」



センリはリンが落ち着くまで、栗色の髪をそっと撫でてやった。

ここまで過酷な任務につかせてしまったことをセンリは悔やんだが、とにかく三人の無事が確認出来たことが救いだった。



『三人とも、本当によく頑張った。花丸だよ。リン……木ノ葉隠れに帰ったら、二人に笑顔を見せてあげてね』

「――はい……!」


リンは袖で目を擦り、センリに向かって笑みを見せた。

センリはポーチから大きな布を取り出し、オビトの身体に巻き付けてやった。



『リン、カカシかオビトのどちらかが目を覚ましたら、神無毘橋に向かおう。この森を抜けてすぐのところだから。橋を破壊して、そしたらすぐ木ノ葉に帰ろう。私はまた少し行かなきゃいけないんだけど、分身体を作るからさ。リン、行ける?』

「はい…!」



しばらくしてカカシが目を覚まし、起きなかったオビトはセンリが背に乗せ神無毘橋に向かい、無事にその橋を破壊した。

息をしているオビトの様子を見たカカシは、溢れ出る涙を堪えながらも、嬉しさで笑顔を取り戻していた。

オビトは、センリの分身体の背中の上で、木ノ葉に着くまで目を覚まさなかったが、それでも確かに生きていた。

カカシもリンも、その事実があるだけでよかった。
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