- ナノ -


木ノ葉隠れ確立期、発展期編

-神無毘橋の奇跡-



気を失って倒れ込むカカシの体を抱きとめるリンの姿を視界の隅で確認し、センリは頭上の枝々に立つ無数の忍を見上げる。

この十二年間で一度も見た事のない、冷静で凛としたセンリの表情を見て、リンはカカシを抱き抱えながら少し驚いていた。

センリの背中を見ていると、まだ決着もついていないというのに何故だか「助かったんだ」というような、大層安心した気分になった。



『岩隠れに戻った方がいい』

「ハッ!馬鹿にしないで貰いたいね。いくらアンタが木ノ葉の切り札だろうと、こっちは昔とは違う。前回の戦争時の岩隠れだと思ってもらっちゃ困るんだ。俺達は違う」


隊長らしき眉の太い男が余裕綽々で言い放つ。その若さから見て前回の戦争には参加しなかった忍だろう。センリは敵の忍達を素早く観察した。皆殺気の篭った表情をし、確かに実力はそれなりにあるようだった。


『神無毘橋はもう通れなくなる。そうすればあなた達にとっては致命的……戦況は一気に木ノ葉隠れに傾くよ。そうしたら私達は和平条約を岩隠れに申し込む。今、戦う必要はない』


戦うのではなく対話を始めたセンリを見て、リンはそのやり方にも少し驚いていた。今にも飛びかかってきそうな忍達を前にしてもセンリは落ち着き払っていた。


「和平条約だと?そんなものをうちの里が受けるわけがねぇ!」

「お前たち木ノ葉隠れに負けるなど、そんな事はあるわけが無い」

岩隠れの忍達は怒ったように言い返した。


『和平条約を結ぶことは“負け”じゃない。それに……“戦争”という方法を選んだ時点で、どちらも負けてるよ』


一番近くにいた忍の目付きが明らかに変わった。どう見ても納得いかない、という表情だ。


「グダグダと五月蝿い女だ…。お前みたいな腰抜けの話になんか付き合ってられねェ」


吐き捨てるようにそう言うと、隣に立っている忍に目配せした。センリは小さくため息をつく。


「不死だとか宣ってるらしいが……今日でその命、終わらせてやる…!!」


その男がチャクラ刀をかざしてセンリ目掛けて襲いかかってくるのと同時に他の忍達もその後に続いた。


『……』

「!」


リンは戦いの行方を見ようとしたが、目の前からセンリの姿が消え去った次の瞬間に襲い掛かってきた男が気を失って地面に落ちて行っていた。

瞬きをする暇もなく次々に岩隠れの忍達が吐血して地に落ちて行く。センリの姿がまるで残像のように男達の前に出現したと思うと、刹那の間に白銀の光が舞う。しかしセンリの姿が見えるのは一秒にも満たない間で、相手の忍達も目で追えていないことがリンにも分かった。

それとほぼ同じ瞬間に、木々の枝に待機していた忍達に蔓のようなものが巻き付き、それから数秒も経たないうちにこちらも目を閉じてまるで眠るかのように失神していた。蔦からは小さな花が開き、鱗粉が舞っている。


「(は、速い……!速すぎて目で追えない…!センリ様も、ミナト先生と同じ術を使えるの…?)」


忍達の驚愕した表情が見えたと思うといつの間にか辺りにいた姿が全て無くなっていた。代わりに、リンが地面を見下ろすと全員が失神して伸びている。言葉を発する暇もなくやられたようだ。

数秒も経っていないのではないかとリンは思った直後、突然センリが目の前に姿を現した。


「岩隠れの忍達は…」

『うん、大丈夫。殺してはいないけど動けないはずだから』


息も乱れず全く動揺した様子もなく自分に手を差し出すセンリを見て、リンはミナトを思い出した。


『オビトを助けにいこう。リン、歩ける?』


リンがその問いに深く頷くとセンリはカカシを抱き抱え、木から飛び降りた。
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