- ナノ -


木ノ葉隠れ確立期、発展期編

-第3次忍界大戦-



まだ十一歳だったガイはカカシと同じように両親のいない身になってしまったが、悲しみにくれる暇はなかった。戦争がそうさせていた。


戦争で忍が死んでも、悲しんでいる間も無いくらいまたすぐに次の戦いが待っている。戦争時代を生きる忍の子ども達の心は、普通の人間よりも強いものだった。


医療忍術に優れていたリンは医療班に補佐として、十一歳で中忍になったオビトは偵察任務などに付きながら日々を過ごしていっていた。


木ノ葉隠れは砂隠れと同盟を組んでいた為互いに攻撃し合うことは無かったが、だからといって表立って砂が木ノ葉を擁護することもなかった。戦時中というのが大きな要因だからだろうが、砂隠れは中立的な立場で木ノ葉と岩の戦闘を観察していた。


中忍になった忍の子どもは少なからず戦争に関わる任務に着くこともあったが、十二歳になると本格的に上忍が一人師匠として指導をする。そこで実力が十分だと判断されれば推薦で上忍へと昇格出来る。

この時期の戦争は未曾有の消耗戦となり、どちらが先に降参するかで決着がつくような戦いだった。

戦争という選択を選んだ岩隠れに呆れていたマダラだったが、その岩隠れは何とか木ノ葉隠れの力を押さえ込みたい様子で、次々と忍達を戦場に送り込んでいた。


その為に戦力になるのなら年齢は関係なく忍として昇格させる。もはや戦力強化の為の師弟の関係のようにも思えたが、決して全てがそうだった訳ではなく、戦乱の中でもお互いに成長出来るようないい関係を築いている班ももちろんあった。



クシナは上忍として任務についていたが、ミナトは子ども達の指導を任される事になった内の一人だった。班員はオビト、カカシ、リンの三人で、ライバル関係にあるオビトとカカシが同じ班になり、その中でリンも交えた恋路の面でも三角関係になるという偶然だった。

しかしカカシがミナト班に所属になった事だけはヒルゼンが直々に指名したものだった。

中忍になってからのカカシは任務でも一人で一方的にそれを遂行し、仲間をそのまま置き去りにしてきてしまうという行動が目立っていた。戦争が始まってからは尚更で、どんなに仲間が犠牲になっても必ず任務遂行を果たす。

それには仲間の命を優先して任務を放棄し、そして自害した父の事が少なからず関係しているとヒルゼンは踏んでいてカカシの自宅にも時々訪れているセンリにその相談を持ち掛けていた。


「忍であればどんな状況だとしても任務を達成するというのは確かに立派な事ではある……しかしそれが裏目に出てしまいカカシは他の忍達からの信頼を失くして来てしまっているようなのです」

『ううん……カカシはここのところ、任務遂行が何より大切でそれさえ出来れば他はどうでもいいっていうふうな行動をしてる事もあったし……。私といる時は任務の話とかはしないからよく分からないけど、そこまでだとは思わなかった』


センリが自宅を訪れている時、カカシは絶対に自分から任務で何があったかを話そうとはしない。しかしそれ以外の他愛の無い話であれば年相応の笑顔を浮かべる事もあったので、センリとしては事態がそこまで深刻だとは思わなかったのだ。


「やはりセンリ様には話をしておりませんでしたか……」


ヒルゼンは切羽詰まった時に必ずパイプに手を伸ばしていた為、この時もやはりそれに口を付けそうになっていたがさすがにセンリの前だと思い直し手を引っ込めていた。


「カカシの班には波風ミナトを担当上忍としてつけようと考えておるのです。少しの間ミナトが戦場から遠のく事にはなりますが…」

『なるほどミナトか。今の上忍達の中では彼が適任なんだね?』


センリの問いかけにヒルゼンは深く頷いた。ヒルゼンももう六十近く、茶色だった髭も白く変化しつつあった。ヒルゼンはその髭を神妙な表情で撫でている。


「ミナトは忍としての才にも溢れていますが、何より人をきちんと見る力があります故、カカシを良い方向に導けるのではないかと思ったのです」


ミナトの他人を見る能力は今も健在で、若いながらも隊長としてきちんと役目を果たす為の糧にもなっていた。納得してセンリは頷き、日が暮れかかった里を見下ろした。


『私からもカカシに言っておいてみる』

「毎回世話をかけます」


ヒルゼンの申し訳なさそうな表情にセンリは微笑んで首を横に振った。


『私に出来る事なら何でもしたいから。遠慮しないで言ってね。それから、パイプは程々に』


センリは行き詰まっているヒルゼンの事が分かっていてそれを解すように茶目って言い、その場を後にした。

表向きは立派な火影として振舞っているヒルゼンだったが、センリを前にするとどうしても弱音を吐いてしまう時があった。それがセンリの能力のようなものだが、ヒルゼンはそれに救われていた。センリとミナトの力があればカカシもきっと考えを改めてくれるだろうと希望を込めながらヒルゼンはパイプを引き出しにしまった。
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