木ノ葉隠れ確立期、発展期編
-第3次忍界大戦-
ヒルゼンも苦渋の決断だった。
任務としてまだ十代前半の子どもを戦場に向かわせる事もあった。手練の大人の忍が同行し、そしていくら忍として腕が立つとはいえセンリとしては心配でしかなかったが、子ども達が命を懸けている中、自分達が弱音を吐く訳にはいかない。センリもまた耐え忍ぶ覚悟を決めていた。
生まれたばかりの息子がいるフガクでさえ、警務部隊から離れて戦場に向かう事は多々あった。自来也も前回同様戦争に気付いて里に戻ったが、綱手の行方は相変わらず分からないままだった。
その他木ノ葉が誇る高い戦闘力を持ったミナトや大蛇丸、猪鹿蝶の当主達、もちろんヒルゼンや日向一族は戦いにおいても名を馳せていた。
センリは分裂体や分身体を里内や野戦病院に置き、本体で戦闘に参加する事も多かったし、マダラは国境付近の戦場を幾つも駆け回り、里に戻ってくる事は殆どなかった。
戦争の中で負け知らずとして活躍していたのはセンリとマダラを除き、ミナトだけだった。戦場に赴く回数はそれ程多くはなかったが、どの戦いからも殆ど無傷で帰還していた。
ミナトは扉間の考案した飛雷神を扱える唯一の忍だ。
そのやり方は扉間と同じで、マーキングを施したクナイを敵地に多数投げ、その間を瞬身の術で飛び回るという戦術だ。気付いた時には息の根を止められているという事が敵の忍達に多くあり、ミナトは“黄色い閃光”として若くして名を残す事になった。
里では第三次忍界大戦の影響により、大きく班編成が変わり、それによって安心する者とそうでない者が分かれた。
晩年下忍であるマイト・ダイはどうにか班から外されないよう隊長に土下座までする始末で、息子のガイはその様子を見てしまい明らかに意気消沈していた。ガイは中忍になったばかりだったので、父の惨めさがより身に染みた。
夕暮れの河原で一人川の流れを眺めているガイに近付くと、父親譲りの太い眉が申し訳なさげに垂れ下がった。
「センリ様、すみません……今日、父がセンリ様のところにまで頼み込みに行ったとか…」
『隊長が全く取り合ってくれなかったらしくてね。私も力になれたかどうかは分からないけど、一応火影に相談してみたから』
それを聞くとガイは更にバツが悪そうな表情でため息を吐いた。
「下忍の父さんが戦場に行ったって勝てるわけないのに…」
赤く染まった川を見てガイは小さく呟き、その場にあった小石を水面に投げ入れた。ポチャンと水に落ちる音が物悲しく聞こえた。
センリは少し頬に笑みを浮かべてその背中をポスンと叩いた。
『ダイは敵に勝つ為に必死になって戦場に行こうとしているんじゃないと思うけどなあ』
「?……どういう事ですか?」
ガイはよく分からないというように眉を寄せてセンリを見た。
『あなたが心配だから…息子の事が心配だから一緒に戦場に行きたいんだと思うよ』
「ですが、きっと父の方がオレより…」
弱い。
そう言いそうになったが自分の中の何かがそれを止めた。言えばそれが確実なものになってしまいそうで、ガイは怖かった。
センリの手が黒髪に伸び、そっと撫でるとガイは不思議そうな顔をした。
『それでも、だよ。親にとって子どもは一番に守りたいものだと思う』
「……」
ガイはまだ分からないという表情だったが、センリの優しい微笑みにつられて僅かに頷いた。
『それに、ダイは強いよ。忍術を使えなくても、下忍だったとしても…ダイは強い人だよ。特に、ここがね』
センリはそう言ってガイの心臓付近をトンと指差した。
『私はすごくかっこいいと思う。あなたのお父さんの事』
ガイは驚いたように目を丸くして、下睫毛が多いその瞳がより特徴的に開く。
「それ……カカシにも言われました」
『そうなの?…そっかあ、カカシはよく分かってるなあ』
成長するにつれてだんだんとクールさが増したようなカカシを思い浮かべてセンリは少し嬉しくなった。それはガイも同じで、父親を褒められて心なしか笑顔が戻ったようだった。
テンションが以上に高い親子として里の人間から嫌煙されていた二人だったが、その中でもセンリやカカシは気にせず接してくれる数少ない存在だった。ガイはその日から少し気持ちを変え、父の思いを受け止められるよう努力をした。
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