木ノ葉隠れ確立期、発展期編
-死した白い牙と新たな世代-
『あ……じゃあ今度一緒に料理作ろうよ。センリズキッチン!料理教室、入会費無料!』
「何ですかそれ………でも、楽しそうですね」
次にセンリがカカシの顔を覗き込むと、もう泣いてはいなかった。年相応の幼い表情を見てセンリはその白く逆立った髪を撫でた。
今のカカシは、オビトに少しだけ似ていた。
両親が居ない事で悲しそうに瞳を伏せ、しかしそれでも温もりを求めるただの子ども。あるべき姿だった。
『料理、食べよ。たくさん力をつけて大きくならないと』
「そうですね…。もっと強くなりたいですから」
強くなりたいと願う心自体は子どもにもよくあるものだ。その時のカカシの瞳は強く、そして必ずそうなりたいという意思が爛々と光っていた。
『オビトもガイくんも、強敵になるだろうからね!』
「その二人には絶っ対に追い付かれません」
『え〜、分からないよ?ガイくんだってめちゃくちゃ頑張って補欠合格したからね!ダイの息子だから侮れないよ!』
「オレにはそんなふうに見えないですが…」
ライバルや友の存在というのは力を競い合う為だけにあるものではない。そのうちにきっとカカシは良い友を持てるだろうとセンリは思いながら二人だけの誕生日会を楽しんだ。
父が死んでから最初の誕生日だ。
悲しい日になるのではないかとも思っていた。自分が生まれた日など、両親の他に覚えている者などいないとも思っていた。
だが自分の目の前で今、自分が生まれた日を共に祝ってくれる人がいる。おめでとうと言ってくれる人がいる。抱きしめてくれる人がいる。
それがどうしようもなく嬉しくて、また涙が出そうになるのを堪えカカシはセンリを見て笑顔を浮かべた。
『カカシ、悲しい時は、それを隠さなくてもいいんだよ。いまは、私がその悲しみを受け取るから』
センリはカカシの髪を撫でながら、穏やかに言った。カカシはされるがままで、ほんの少しだけ目を瞬かせた。
「でも……それだと、センリ様の重荷になってしまいます」
こんな時でも自分の感情をなるべく抑えようとしているカカシを見て、センリは少し困ったように微笑んだ。
『ならないよ!私の心の中にはものすごーっい広いスペースがあってね。いや、むしろ隙間があり過ぎてちょっと困ってるくらいだからさ…カカシの悲しさを入れる事が出来ればちょうどいいんだよね!』
センリの優しい笑みを見て、カカシはどのか安堵したような、不思議そうな表情をしていた。
『それに、“いま”は私が受け取るけど、カカシがどんどん大きくなって大人になったら、その時はカカシの悲しみを一緒に分け合ってくれる人が、絶対に出来るから!だから、大丈夫だよ』
不思議な“大丈夫”だった。無関心から出る言葉でも、その場しのぎの言葉でもない、本当に“大丈夫なんだ”と思える…奇妙な感覚に、カカシは浸っていた。そして無意識に表情が和らいだ。無理をしている訳では無い、満足感にも似た感情だった。
「センリ様は…本当に、不思議な人ですね」
カカシは小さな声で呟くように言った。言葉が勝手に口から転がり出てくるようだったが、センリはそんな事には全く気付かず、いつものような軽やかな笑い声をあげた。
『ええーっ、そんな事ないんだけどなぁ…』
「そんな事ありますよ」
自分より何十も歳上には見えないセンリの百面相を見てカカシは笑った。センリの声を聞き、言葉を呑み込み、その微笑みを見ていると、心の中の悲しみが本当に溶けていくような気がしていた。
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