木ノ葉隠れ確立期、発展期編

-死した白い牙と新たな世代-



サクモが自殺した事はそれ程公にはならず、リンやオビトもその事を知らないままだったが、サクモを自殺に追いやった者達はマダラから厳重な戒告を受け相応の処罰も下されたようで、しばらくの間はかなり萎縮した様子だった。



マダラとも話した通り、それからセンリはカカシの自宅に時々訪れていた。


父からセンリの事をよく聞いていた為最初の頃は戸惑い、申し訳なさそうだったカカシだったがセンリの笑顔と思いやりに触れ、父を失った悲しみからは徐々に抜け出していた。


知り合い程度だったカカシとセンリだったが、その接触を機に自然と仲も良くなっていった。幼い割に冷静沈着で大人びていたカカシだったが、センリの前では表情を崩すようにもなった。

カカシはセンリに母の面影を感じながらも、姉のような存在として慕っていった。



『誕生日おめでとう、カカシ!』



カカシが八才を迎える日、センリはカカシの自宅でそれを共に祝っていた。任務から帰ってきた瞬間、クラッカーの中身のカラフルな糸紙を浴びながらカカシは驚いた顔で突っ立っていたが、目の前に並べられたご馳走とセンリの笑顔を見て意味が分かりマスクの中でそっと笑みを浮かべた。


「あ、ありがとうございます、センリ様」

『うんうん、今日はおめでたい日だからね!ほら、今日はカカシの好きなサンマの塩焼きと、ナスのお味噌汁もいつもより腕によりをかけて作ったよ!し、か、も〜……お味噌は赤味噌!』


帰ったらもしかしてセンリが居るのではないかとも多少期待している自分がいたが、こうも予想を上回るものを用意してくれているとカカシの心は突然火が灯ったようにあたたかくなった。

カカシは畳の上に置かれたテーブルの前に座り、マスクをとって手を合わせた。見た目も美しく仕上がっているサンマに箸を伸ばしてその身を一口含むとサンマのふんわりとした身が何故かいつもより美味しく感じ、丁度良い加減の塩見の口当たりがやさしかった。


『サンマ旬だから脂がのっててすごく美味しいでしょ〜。イワシもサービスしてもらったから生姜煮を用意したの!これはお手製梅ジュース!あとカカシは甘いもの苦手っていうから食後に塩大福ね……これ美味しいんだよ。我慢出来なくて一個食べちゃったけど…でも大丈夫、いっぱいあるか……――』


センリはそこまで言って言葉を止めた。

カカシの目がだんだんと潤み、そしてそこから涙が一筋零れ落ちたからだ。

カカシは慌てたように目を擦り、すぐにいつものように薄く口元に笑いを携えたが、その唇が震えていた。


「すみません……料理が、美味しすぎて、」


カカシの精一杯の強がりに気付いたセンリだったが深く問おうとはせず、料理を説明をしていた手を止めてカカシの隣に移動した。


『そういう時は私の胸で泣きなさい!ほら!』


冗談っぽく言ってセンリは手を広げ、カカシの小さな体をぎゅっと抱きしめた。あたたかい、子どもの体温だった。カカシはその腕を拒否せずに、体をセンリに預けた。


『料理が美味しすぎて泣いちゃうなんてカカシはいい子だなあ。作った甲斐があったよ!』

「センリ様の作る料理は、いつでも美味しいです」


カカシはセンリの腕の中で気付かれないように唇を噛み締めていた。口の中が微かにしょっぱくて、それが塩のせいなのか涙のせいなのかは分からなかったが、ただ、センリにそうしてもらっていると安心した。
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