- ナノ -


木ノ葉隠れ確立期、発展期編

-死した白い牙と新たな世代-



しかし、そのカカシに関しては、悲しい出来事も起こってしまっていた。


ヒルゼンの口から、はたけサクモが自害したと聞かされたのはカカシが中忍に昇格して少し経った時の事だった。



里外の重要任務についていたサクモだったが、その現場で隊長として任務遂行か仲間の命を守るかの選択を問われ、後者をとる苦渋の決断を下した。サクモは任務を中断し仲間の命を率先して動き、里に帰還した。


だがそこからが問題だった。

重要任務が破棄された事はヒルゼンもマダラも責める事は無かったが、他の忍達は違った。

サクモは同僚達から言われの無い中傷をされ、仲間を助けた英雄としてではなく、任務を破棄した掟破りの忍として陰口を叩かれていたのだ。


そんな事を知りもしなかったセンリは驚愕し、悔しさに目を伏せた。

確かに忍界の掟を破るのは言語道断だ。しかし他人の命を救うという偉大な事を成し遂げた筈なのにそれが報われないというのは悲しすぎた。


「あいつは昔から心の優しい奴ではあった。今回その事が仇となったようだが……サクモのした事は間違いではない。弔ってやれ」


サクモの葬儀の翌日、その名が刻まれた墓を前にマダラがセンリに言う。センリは小さく頷き、その墓の前にいつものように白蘭を置いた。


「任務で命を落とす事は忍としては避けては通れん。しかし、今回はそうも言っていられんな……里としても惜しい忍を失くした。サクモの班の愚か者共にもよくよく言い聞かせなければならんな。木ノ葉隠れの忍として――その前に人間として有るまじき、愚鈍な行為だ」


忍達に厳しい措置を取らなければならないと思っていたマダラだったが、自分達が気付けば今回の事を避けられたかもしれないという後悔の念も渦巻いていた。


『そうだね…。そんな事になってるなんて、気付きもしなかった』

「“気付かれぬように”悪行を働いていたのだろう。特に精神的に未熟な者はそういう事をする。出る杭を打って安心感と優越感に浸るのだ。己の未熟さから目を背けたいばかりに他者の尊厳を踏み躙る…」


マダラの言う事は最もだとセンリも思った。一部の人間だけだとしても、変えなければならない。



「ヒルゼンでは心許ない。奴らには俺が少し灸を据えてやろう。そういう奴らには多少“力”を見せつけておかんとな」


マダラの口調は抑え気味ではあったが、センリでも少しゾッとするような鋭い瞳をしていた。しかし、行き過ぎた者を制圧するという行為は、確かに必要だと思えた。



『そうだね…。相手の精神が弱かった訳じゃなくて、自分達が未熟だったって事には気付いてもらわなきゃ』


戒めるとはいっても加減をするだろうと分かっていたセンリは、その事はマダラに任せる事にした。


「そういえば…あいつの息子は七歳になったばかりだったな。お前はよく会っていただろう。思い詰めて父親の後を追ったりされては困る…。一先ず葬儀の時は変わった様子は無かったが…」


幼い子どもにとって父を失うというのは大きな悲しみを伴う出来事だ。母も居らず、それにより孤独になってしまったカカシが同じ事をしたり、復讐したりするかもしれないと、マダラは僅かに心配もしていた。


『あの子はいつも冷静だからな…。さっきもお家に行った時も淡々と遺品整理をしてたけど……本当は悲しいと思う。当たり前だよね…。ちょくちょく様子を見に行く事にする』

「まあ…それが良いだろうな」


あまり感情を表に出さないサクモの息子の事を考え、センリは少し心苦しかった。
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