- ナノ -


木ノ葉隠れ確立期、発展期編

-死した白い牙と新たな世代-



里内では年が変わる事に次の世代が訪れ、センリやマダラにとってはそれがほんの一瞬の事のように感じる。だからこそセンリは一瞬一瞬の時間を大切にしたかったし、任務や仕事と同じくらい子ども達の成長を見るのが重要な事だった。



それなりの手練の忍はセンリやマダラの存在や地位を知っておりそれによって敬って接してくる者が殆どだったが、相手の性格や育った環境によってはそれを知らない者も少なからずいた。

クシナは他里から木ノ葉に引っ越してきた為にセンリやマダラの存在を知らず、最初からセンリにも友達のように接していたし、マダラに対しても畏怖嫌厭する事もなかった。センリはそれを受け入れていたし、むしろその方が嬉しかった。

敬称をつけて呼ばれる事も、自分の行いやして来た事が皆に認めてもらっているようで嬉しさは感じるが、その一方で友のように立場を気にせずに話してくれる存在が大切でもある。



うちはオビトはそれを気にせずにセンリに接していた内の一人だった。

オビトは大戦中に産まれ、両親はその戦いで命を落としてしまい、祖母と二人で暮らしているうちは一族の子どもだ。その為にセンリがよく気をかけていた子どもでもあり、オビトもセンリによく懐いていた。

うちは一族特有でもあるハリのある黒髪に黒目、自分の処遇を気にしない明るく活発な子どもだった。その割には産まれてすぐからよく泣く子で、その涙脆さはもう少しでアカデミーに入学するという頃になった今でも現存であり、泣く事を恥ずかしいとは思っているようだったがどうしても涙腺の緩みを抑えらずに毎日四苦八苦していた。



「忍が毎度毎度泣いていては話にならんな。両親がいない事を馬鹿にされたくらいで一々喚くな」

「う、うるせー!見た目が若いだけのジジイのくせに!お前なんて絶対にソンケーしてやんないからな!」

「泣き虫なだけの砂利に敬われなくとも結構」

「なっ、なんだと!?オレは砂利じゃねェ!うちはオビトだ!」

「そう言うなら、せめて喧嘩で勝てるようになってから大口を叩け。うちはの者がそんな事くらいで降参してどうする。敵意を向ける者共の前で何もせずに泣くくらいなら、蹴りの一つでも入れてからにする事だな」

「…っ」


マダラの厳しい言葉にオビトは下を向いて耐える。オビトにはまだマダラの言葉は難しいようだが、自分の弱さを指摘されている事は理解しているオビトは言い返せない。

センリはオビトの膝の痛々しい擦り傷に包帯を巻きながら困ったように微笑んだ。


『もう、マダラはうちはの子ってなると一段と厳しいんだから……』


普段から老若男女問わずに厳しく接しているマダラはそれがうちは一族となるとやはり別格だった。

クシナの場合は、クシナ自身が自分を虐める子どもに屈せずやり返す気持ちと度胸があるので、センリから見てもマダラは随分手加減しているように見えるが、オビトのように悪意を前にして逃げ帰る子どもには非常に厳しかった。それがやはりうちは一族となれば尚更だ。

センリは自宅の玄関に座って膝小僧を差し出している涙目のオビトを見上げる。


『オビト、いつかその子たちを見返してやるくらい強くなって、自慢してやろう。その為の涙だと思えば、恥ずかしい事はないよ』


自分が情けなくて俯いているオビトの目元を親指で優しく辿ってセンリが言うと、その目が僅かに開かれ口元に徐々に笑みが広がる。


「うん……!もちろんだ!オレは絶対、火影になるんだからな!」

『よしよし、その意気だよ。泣くのは悪い事じゃないけれど、その涙を無駄にしてはいけないよ。たくさん泣いて、その後は必ず強くなろう』

「おう!」


立ち上がってオビトの頭を撫でているセンリを見てマダラはため息を吐いた。



「火影になりたいと言うのなら尚更目の前の敵から目を逸らすな。そもそも敵を前にして逃げるような奴は火影などにはなれんぞ」

「…これから、そうなんだよ」


オビトは幼いながらもマダラの言葉をきちんと理解していた。言い返さないのはマダラの言う事にも一理あると分かっているからだ。



『目標を持たなきゃ夢は始まらないもんね!』

「そーいう事だ!」

「全く……お前こそ砂利に対して甘過ぎる」

「マダラのジジイと違ってセンリは優しいんだよ。ちょっとは見習えば?」

「何だと?」


マダラがキッと睨み付けると、オビトは体をビクッとさせて、センリの後ろにそーっと移動した。センリはくすくす笑った。


『大丈夫だよオビト。マダラは、本当はすごく優しいんだから』

「えええーっ、ホントに?」


マダラは腕を組んで鼻を鳴らしたが、特に言い返す事はなかった。全力で疑っているオビトを見て、センリはウンウンと頷いた。


『本当だよ。それじゃあオビト、おばあちゃんが待ってるから一緒に帰ろう。』

「おう!じゃあセンリ!途中の空き地でちょっとだけ組手に付き合ってよ」

『もちろんいいよ!』

「………」


自分にベーッと舌を出してからセンリに駆け寄っていくオビトを見てマダラは確かに怒りを覚えたが、センリの慈しむような表情を見てしまうとそれも小さな吐息に変わるだけだった。

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