木ノ葉隠れ確立期、発展期編

-事件発生とオビトの弟子入り-



『……いっ…!』


鋭い痛みを感じてセンリは一歩よろめき、何とか足を踏ん張る。またたく瞬に蛇は消え去って、センリは咄嗟に首元を手で覆う。
瞬時に噛まれた箇所を強く抑え止血はしたが、突然体に力が入らなくなりセンリは前のめりに地面に倒れた。全身が痺れてジクジク痛み、酸素が肺に取り入れにくくなっていた。


「伝説ともあろうセンリ様が……まさか、この程度の攻撃を避けられない程油断していたのですか?」


倒れたセンリに近付きながら、大蛇丸は楽しそうな笑みを浮かべた。センリは何とか眼だけを、自身の側に膝をついた大蛇丸に向けた。


『…っ………』


大蛇丸の怪しげな笑みの向こうには、大きな満月が見えた。チャクラを使いたくても、全く使えない。

苦しげな呼吸をして自分を見上げるセンリを、じっと大蛇丸は見下ろしていた。


「永遠の命を持っている貴女の事を、私が調べてないとでも?」

大蛇丸の囁くような声が、変に頭の中に流れ込んできた。センリは驚いたように瞳を動かした。


「色々と調べさせて頂きましたよ…貴女の事は。何年も、ね。その為に里にいたようなものですからね」

『な、なに、を――――』


センリは大蛇丸に問いかけようと声を出したが、ほんの僅かな掠れた囁き声しか出てこない。大蛇丸は今までに見た事がないくらい、楽しそうな表情をしていた。



「貴女は、空気中の毒を吸っても効果はない。けれど、血液から入り込んだ毒には、ほんの僅かに効果がある……。まさに私の予想通りだったみたいですね」

『…!』

「フフフ……もしかして、知らなかったのですか?」


センリの驚きの表情を見て、大蛇丸はおかしそうに笑う。センリ自身全く気付いていなかった事だった。


「貴女の“血”はきっと特別なのでしょうね…。その蛇の毒は致死的毒性物質をこれでもかというほど混ぜて作ってあるというのに…。普通なら数秒で死んでいますよ?その程度で済むなんて、フフフ…本当に恐ろしい身体…――」


センリは、ぐるぐると廻っている様な視界が気持ち悪くなり、目を細めた。大蛇丸の声が、どこか遠くの方から聞こえ、それと同時に頬に触れる冷たい皮膚の感覚もした。体温の低いセンリよりも更に冷たい大蛇丸の手の指が頬を撫でている。まるで壊れ物に触るように、そっと。



「本当ならば貴女を攫っていってしまいたいのですけれど……でもそれにはリスクがありすぎる……。不老不死を実現させる前に“死神”に殺されては、意味がないからね…」


不気味に微笑む大蛇丸の姿がだんだんとぼやけていく。センリは何とか意識を保とうとしたが、チャクラを全く使えないこの状態では、どうする事も出来なかった。
大蛇丸はセンリの長い髪を、まるで愛おしい人間にそうするように、梳いた。



「…ああ、そうそう、ついでに貴女の血も少し貰っていきますよ………もう聞こえていないでしょうけど」


完全に瞳を閉じてぐったりしてしまったセンリを見て大蛇丸は呟き、持っていた採血用の注射器をセンリの腕に素早く差し込む。注射器の中に流れ込む血液でさえ、大蛇丸の目には不思議と神聖に、美しく見えた。

採血し終わると大蛇丸はセンリの細い首に手を当て、脈を確認した。



「(このレベルの毒でさえ、脈泊に何の変化もないとは……もう少し強くしても良かったかしら…)」


そして大蛇丸はすっと立ち上がり、月明かりに照らされた、微動だにしないセンリを見る。血濡れで倒れていてもそれが彫刻のように美しく、目に焼き付けるように大蛇丸はセンリを見つめた。



「これは……貴女の為でもあるんですからね………」


小さな声は夜の闇に消えて、それと同時に大蛇丸の姿もそこから消え去った。


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