木ノ葉隠れ確立期、発展期編

-事件発生とオビトの弟子入り-



『イタチ……その目…』


異変を感じたのはイタチの瞳に涙が溢れていたからではない。


「……!」


その時イタチも自分自身に驚いたように目を見開き、センリから離れた。


「これ――これが………写、輪眼…」


イタチの瞳が、赤く染まっていた。内側から発光しているような赤い、見慣れた巴模様。写輪眼だ。
イタチは仲間を殺された事により、写輪眼を開眼したのだ。

イタチは、視力が悪い人間が眼鏡をかけた時のようにその効果を確認するようにぐるりと周りを見回した。


「チャクラの流れが、見える…」


独り言のように呟き、イタチの視線はセンリに戻ってきた。と同時にイタチが頭を抱える。


『大丈夫?写輪眼はチャクラを消耗するから…』

「だい、じょうぶです」


その時点でイタチの中では、仲間を殺された後悔と写輪眼を開眼した衝撃とが、二つの感情となって思考を制していた。


「これで……今度は…―――」


イタチが瞼を押さえ囁いた声はセンリに届かなかったが、赤く燃える瞳と同じように、イタチの決意も燃えていた。


『イタチ……』


センリはイタチの前髪をそっと梳かした。イタチの写輪眼がすう、と消えた。


「父さんは……写輪眼は、“心から力を手に入れたいと思った時に現れる”って言ってた…――でも…シスイは、少し違う事を言ってました」


イタチは少しセンリから身体を離して、小さな声で言った。


『“本当に大切なものに気付いて、それを守りたい”と心から思った時?』


センリが続けてそう言うと、イタチはセンリの顔を見上げて、目を瞬かせ、そして頷いた。長い睫毛がふるふると動いた。


「そうです…シスイは自分もそうだった、と………。それに、シスイはマダラ様からそう教わったと言ってました。“写輪眼の瞳力は、己の大事なものを守る為の力”なのだと……――」


自分の知らないマダラの行動にセンリは少し驚きつつ、マダラなりに子どもたちを良い道に導こうとしてくれている意志を感じて嬉しくなっていたし、それにその言葉の重要さもセンリ自身、痛い程に理解していた。
イタチの瞳からは、哀しみが少しずつ引き、それと引き換えにいつもの疑問の光が灯ってきていた。



『私も、そう思うよ』


センリは、イタチの目元に残る涙を、親指の腹で優しく取り除いた。イタチは擽ったそうに視線をずらしたが、どこか心地良さげでもあった。



『イタチは今回の事で、本当に大切な何かに気付けたんだね。それって本当に凄いことだと思うよ。確かに…失ってしまったものも、あったと思う。辛かったと思う…――でも、本当に守りたいものに気付いたイタチは、これからとても強くなれるとも、思う』

「強く…―――オレは、強く、なれるでしょうか?これから…大事なものを、守っていけるでしょうか?」


センリはイタチの頬を、両の手の平でそっと包み込んだ。イタチの目からはもう、涙がこぼれ落ちる事はなかった。


『イタチが、心からそうしたいと思うなら。本当に、守り抜きたいものがあるのなら…きっと大丈夫だよ』

「でも…今度はオレが、誰かを傷付けてしまうかもしれない………」


イタチは瞼を伏せたが、センリはやわらかな微笑みを浮かべた。



『“強い力”は、戦う為のものではなく、守る為のもの。それをちゃんと忘れなければ、大丈夫。私達は、みんなそうだと思う。大切なものを守って、心を繋いでいく……そうするのが私達、忍だと思う』



イタチは瞬きもせずに、センリの瞳を見返していた。月の光が金色の瞳に入り込み、まるで星々のように煌めいている。とても綺麗だ、とイタチは思った。
そして、いつか父が言った「忍とは戦う生き物だ」という言葉を思い返していた。


センリは穏やかに語りかけ、これまでもうちはの子どもにそうしてきたように、イタチの頬を撫でた。愛情を込めて、大事に、やさしく。



『確かに忍は戦う事が多いけれど……だけど、私達は“意味の無い戦い”は、絶対にしてはいけない。例え誰にも負けないくらい強かったとしても――守るものがない…破壊して失うだけの力は、本当に強い力とは言えないから。でも…真っ直ぐな意志を伴った力は、何にも勝るものだよ』



センリの唇からこぼれ落ちる言葉は、不思議だった。イタチはその言葉達が、なんの抵抗もなく自分の心に落ちていくのを感じていた。心底に着地し、それはあたたかな温もりとなってイタチの身体を包み込んでいた。



「(そうだ……オレには、この眼で……守らなきゃいけないものがある…見なきゃいけないものが、あるんだ……こんな事で思い悩んでたら、ダメなんだ)」


イタチは心の中で堅く意志を固め、初めて気付いた“自分を信頼してくれている仲間の大切さ”を胸に刻みつけ、そしてそれをこの先必ず守って行けるように…そう強く焼き付けた。写輪眼の瞳の奥に。忘れぬよう、強く、強く。


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