木ノ葉隠れ確立期、発展期編

-新しい命-



センリは出産祝いをミナトとクシナの元に届けたついでに、二人の住むアパートで夕食を共にしていた。クシナの予定日までは後に二ヶ月ほどに迫っていた。


そこで、二人が産まれてくる子どもの名前を決めたという話を聞いた。

ミナトは自来也の執筆した処女作である“ド根性忍伝”の大ファンだった。その為その主人公から子どもの名前を貰いたいと言い、自来也を大層動揺させたそうだ。

ミナトとクシナの子どもが生まれると聞いて、終戦後いつものように放浪していた自来也は、一度里に戻りミナトの元に祝いに来ていた。突然そんな嬉しい提案をされては、さぞ面食らっただろう。


「自来也先生はかなり焦ってましたが…オレは本当にこの主人公が大好きなんです」

ミナトは、ド根性忍伝を大切そうに見つめて言った。


『まさか自来也も、自分の書いた小説の主人公の名前を付けられると思わなかったからびっくりしたんだろうね。でも、私もその主人公、すっごくかっこよくて好きだよ!』


ド根性忍伝は自来也とセンリが雨隠れで子ども達に修業をつけていた時に自来也が執筆し、長門達の言葉からヒントを貰いながら、完成させたものだ。
タイトルの通り、主人公は根性のある男で、何があっても諦めない心を持っているという設定だ。とても自来也らしく、センリも大好きな物語だった。


「センリ様なら、そう言ってくれると思ってました」

センリの満面の笑みを見て、ミナトは嬉しそうに顔を綻ばせた。

『それに、クシナはラーメン、大好きだもんね』

センリが隣に座って食後のプリンを頬張るクシナを見て言った。クシナのお腹は誰が見ても分かる程に大きくなっていた。


「そうそう。塩ラーメンなら一ヶ月間毎日でも食べられるってばね!悪阻が酷かった時も塩ラーメンなら食べられたんだから」

「毎日はさすがに……」

本気で言っているようなクシナを前に、ミナトは苦笑いした。


『ふふっ、出産終えたらみんなでラーメン食べに行こうね!』

「もちろん!ああ〜楽しみだなあ」


今からウキウキ気分になっているクシナを、センリは頬杖を付きながら見て、微笑んだ。


しかしちょうどその時呼び鈴が鳴った。ミナトが出ると、玄関に姿を現したのはマダラだった。


「センリが邪魔しに来ているだろう」

「ええ、クシナにお祝いを届けに来て下さったんです」
ミナトは微笑んでマダラを迎え入れる。


「自来也からこれを預かった。祝いの品だ」

マダラは紙袋をミナトに差し出した。ミナトは礼を言って受け取る。


「自来也先生、こんな良いお酒を…」

『わお、それ、とっても美味しい蜂蜜酒だ。さすが自来也だね!』


センリはその蜂蜜酒をよく知っていた。マダラとの婚姻の祝いの席で柱間がくれた、非常に質の良い蜂蜜酒だ。


「マダラ先生、せっかくだから飲んでいったら?」
クシナが提案するが、マダラは首を横に振った。


「いや…先程まで自来也と店にいたからな、遠慮する」

『そういえばそう言ってたね。自来也はどうしたの?ちゃんと帰らせた?』


確かにマダラはほんのりと頬の血色が良くなっていたし、ほのかにアルコールの匂いがした。センリは自来也が少し心配になって問いかけが、マダラは小さくため息を吐いた。


「二軒目に行った。あいつが毎回行く店だ。今日はそれ程酒も飲んでいない。分別はついていたから大丈夫だろう」

『それならいいけど!自来也が贔屓にしてる…寒那ちゃんと暖ちゃんがいるところね!』

「か、かんな…ちゃん――?」

『自来也のお気に入りの女の子がいるお店だよ!温泉街の近くの』

「な、なるほど…自来也先生らしいですね…」


相変わらずの自来也の行動に、ミナトは少々引き攣り笑いを浮かべた。

「何でセンリはそんな事知ってるの?」

クシナは椅子に座ったまま半分呆れたように、半分面白そうに笑いながら言った。マダラも腕を組んで眉をしかめている。


『たまに会う時があるからさ。とっても良い子達だからね!可愛いし、すごく優しい』

「それが奴らの仕事なのだから当たり前だろう。特に自来也などは太客だろうからな……そんな事より、お前はまたそんな所に着いて行ってたのか?今後は一切立ち入り禁止だ」

『ええっ!?なんで!たくさんお金使ってないよ?』

「そもそも女性が行く場所ではないのでは…?」

『別にいいって言ってたよ』

「もう、センリってば……」

どこかズレているようなセンリを見て、クシナは笑ったが、マダラは盛大に眉を寄せている。


「駄目だ。全く、そんな下品な所に行って…何か遭ってからでは遅い。特に夜などはロクな連中がいないだろうが――何度言ってもお前は自分の魅力に気付かんのだからな…そんな場所にいたら攫われるに決まっている。自来也の奴にもよく言っておかんとな……そもそもこの間だって――――」

『攫われるってそんな…』

「そういうふうに油断するなと言っている。だからお前は―――」

『は、はいはい!分かった、分かりました!それは帰ってから聞くよ!』


酒を飲んでいつもより口数が多くなっているマダラに少し焦りを感じ、センリは席を立ってマダラに近付いてそれを制した。

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