木ノ葉隠れ確立期、発展期編
-新しい命-
満月ではない日でも、連絡なしに夜に帰るとマダラが心配してくどくど言われると分かっていたので玄関を開けたらそこに仁王立ちしているかもしれないと考えて、センリは一人笑った。
しかしセンリの予想に反して、家に近付くのと同時に賑やかな声が聞こえてきた。この時間に聞こえる声としては珍しいので、一体どうしたのかとセンリはぐるりと縁側の方に向かった。
『こんばんは、オビト』
「センリ!帰ってきたのか」
庭に立っていたオビトがセンリに気付いてにっこりした。マダラは縁側に胡座をかいて座っていた。
「遅いぞ、センリ」
『ごめんごめん!ミコトとイタチと話してたらいつの間にかこんな時間になっちゃって』
「それは構わんが、遅くなる時は影分身を寄越せ」
「マダラは相変わらず心配性だな」
オビトは両手を頭の後ろで組んで少し呆れたように言った。
『オビトはどうしたの?』
「マダラに巻物を渡して来いって、パシられたんだよ。ミナト先生――四代目火影に」
オビトは少し冗談っぽく言い直した。オビトに頼むという事は、そこまで重大な報告書等ではないだろう。
『なるほどね!ご苦労さま』
「おう!そんで今、マダラに写輪眼を扱うコツを聞いてたとこだ!」
「うんざりする程しつこくな」
「しつこいとは何だよ!同じうちは一族なんだから教えてくれたっていいだろ」
「無能な砂利に教えるのは疲れる」
「オレは砂利じゃねェ!う、ち、はオビトだ!アンタと同じ一族!」
何年か前と変わらない会話を繰り広げられるのを見てセンリは楽しそうにくすくす笑った。マダラは呆れたような表情だが、口調には棘がない。
『大丈夫だよオビト。オビトは自分自身で“気付けた”んだから。立派な、うちはオビトだ!』
「ま、まあな!オレは火影になる男だからな!」
センリはオビトに近付いて朗らかに言った。一ヶ月ほど前に十四歳を迎えたオビトは、少し大人っぽくなった表情をふんわりと和らげた。
「でも思えば……センリも、“うちは”センリだろ?」
ふとオビトが問いかけると、センリは確かに、と微笑んだ。
『そっか。私も“うちは”かぁ!これからそう名乗ろうかな』
「お前は名乗るのが遅過ぎる。それだけでなく誰にでも、「うちはマダラの妻」だと名乗れ」
『だ、誰にでも……!?』
「初対面のヤツに言ったって信じてもらえねーだろ。センリみたいに美人で誰にでも優しくて慕われてる女が、マダラみたいな奴と結婚してるなんてさ―――」
「黙れ泣き虫小僧」
「なっ、最近は全然泣いてねーだろ!そういう所だよ!ったく……ホント、マダラのジジイはセンリに感謝した方がいいぞ―――うわっ!写輪眼向けんなよ!」
月明かりの中マダラの瞳が赤く光ったので、同族とはいえオビトは慌てて顔を背けた。センリは鈴の音が鳴っているような笑い声を上げた。
『そんな事ないよ!感謝するのは私の方だよ。マダラは、私みたいな人間とずっと一緒にいてくれてるんだから!』
「ハァ……センリは優し過ぎるな。何でマダラみたいな奴を選んだのか本当に分からな―――万華鏡写輪眼はやめろって!」
『あははっ、二人は仲が良いなあ!』
傍から見たらいがみ合っているようにしか見えないが、それでもマダラと長く共にいるセンリには、マダラが楽しんでいるように見えていた。
「お前はいつになっても年長者への態度に改善の乏しがないな。いつか必ず後悔させてやるぞ」
「セ、センリ!マダラが脅してくる!」
『大丈夫だよ、冗談だから』
オビトには全く冗談だと思えなかったが、センリは余裕たっぷりに微笑んだだけだった。
「フン…お前が成長せんから、あんな小娘如きに振られる事になるんだ」
「ふ、振られてなんかねーだろ!これから振り向かせるんだよ!」
オビトは分かりやすく動揺し、言い返した。
『そうだよ!オビトはとってもかっこよくなってきたし、リンも見直してくれてるもの。振り向かせちゃえばいいんだよ!』
「そうそう、マダラの言葉を真に受けてたら生きて行けねーな」
「砂利の分際で図に乗るな」
「砂利じゃねェっつの!ハァ……マダラと話してると疲れる…。言い付けられたものも渡したし、オレは家に帰るからな」
「やっとか…。お前がいるとうるさくて適わんからな、とっとと帰れ」
「挑発してきてんのはマダラだろーが…!」
『また来てね、オビト!今度は一緒にご飯食べようね』
「おぅ――――」
「駄目だ。お前はうちの敷居を跨ぐな」
「……」
『冗談だから気にしないでね!』
オビトは最後にマダラをじとっと見てから姿を消した。
子どもは大切な存在だと思っているセンリにとって、どんな形であろうと、子ども達の成長を感じるのは嬉しい事だった。
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