木ノ葉隠れ確立期、発展期編
-四尾の暴走、そして終戦-
クシナ達と別れて自宅に帰った後、センリはマダラに言われた通りに記憶を思い返しながら、温かいシャワーを頭から浴びていた。
『(うぅぅ……一体私が何をしたって言うんだ……マダラってば、本当に心配性だから…孫が暴走してる時に素手でいったのがそんなに嫌だったのかな……でも確かに、マダラからしたら尾獣の子達がどんな感じなのか分からないし、私がやられると思ったのかな……)
あ、いやでも待てよ――』
センリは手拭いで髪を乾かし、ぶつくさ呟きながら脱衣所でウロウロ歩き回っていた。
ある程度髪の湿り気が取れると、今度はドライヤーをかけながらウンウン唸った。
『(うぅぅん……もしかして…あの人柱力の人を殺すのかと勘違いしたのかなあ……あの時随分チャクラを荒立てちゃったから…それで怒ってる…?)
―――いや、マダラはそれくらいの事じゃ怒るとは思えない…』
髪が完全に乾くと、センリは居間に移動してソファとテーブルの周りをぐるぐる回った。
『うーん、それから私――私、何したっけ?えーっと…神無毘橋の任務は、達成したでしょ……リンとカカシとオビトも、無事……いや、もしかしてオビトとカカシに怪我させたから……?あっ!いや――雲隠れの…ビーくんとお兄さんともうちょっとちゃんと話を続けるべきだったかな――?いや…マダラが喋りたかったのかも……』
「そんな訳なかろう」
『ひゃあ!!』
突然のマダラの声に心から驚いて、センリは叫んで身体を揺らした。かなり集中していたので、マダラが家に上がってすぐ近くに来るまで全く気が付かなかった。
胸に手を当て呼吸を整えるセンリを見て、マダラは少し可笑しそうに鼻で笑った。
『び、びっくりした……』
「何を一人でブツブツ言っているのかと思ったら…随分と集中していたようだな。その姿勢だけは褒めてやろう」
『あ、ありがとう…?』
「ただ、お前が導き出した答えは一つも合っていないが」
『うぅぅ……ウソでしょ……』
マダラは短くため息をついて、ソファに腰掛けた。センリはおずおずとソファの上に正座した。
その仕草が可愛らしくて、マダラはつい口角を上げてしまいそうになったが、長い前髪を払い除ける仕草をする事で誤魔化した。
『ヒルゼンに報告は、大丈夫だった?』
「それは問題ない。砂隠れも三代目風影失踪の件は内々でキリをつけたようだからな。木ノ葉と手を組む事を拒みはせんだろう。後はタイミングを見計らって岩隠れに和平条約を送り付けるだけだ。そうなれば今回の戦いも終戦だろう。で―――」
終戦と聞いてセンリはほっとしたような表情を浮かべていたがマダラがあの目をしたので、咄嗟に背筋を伸ばした。
「何か、良い言い訳は用意出来たか?」
『うっ……そ、それは――――』
センリは分かりやすく動揺して頭を下げ、マダラをちらりと見上げた。自宅に戻り、二人きりになった事で先程よりは威圧感がなくなっているような気がした。
マダラは答えを求めるように、じっとセンリを見つめている。センリはしばらく視線をウロウロさせて考えた。
『あの――もしかして、私の事、心配してくれてた……?』
センリがおずおずと、小さな声で言った。マダラのこれまでの言葉と態度をセンリなりに考えて、導き出した答えだった。「いつも無茶な事ばかりする」、とマダラが怒っていたのを思い出したのだ。
『ちょっと考えたんだけど…私、マダラが、ちょっとでも怪我したらイヤだなって、思ったの。すごく心配になっちゃうなって……も、もしかして、マダラも、そう思ってるって事かな、って…』
それを聞くとマダラは呆れたような、どこか安堵したような、長い息を吐いた。
「お前にしては、上出来、か」
『ほっ、ほんと?』
センリはこれまた分かりやすく、嬉しげに笑みを拡がらせた。金色の瞳が、幼子のようにキラキラと輝くのを見て、マダラは眉を下げた。この顔を見てしまうと、どうも強く言えなくなってしまう。
「全く……お前は本当に、愚か者だ」
そういう自分自身に少し腹が立って、マダラはそれをセンリのせいにする事にした。
『あ、合ってるの…?』
「八割くらいはな。ハァ……お前は他人の精神には敏感なのに、どうして自分自身となると途端に鈍感になるのか…」
『そっか……マダラも私の事、心配してくれてたんだ』
「馬鹿、そんな事はとうの昔から分かりきっている事だろう」
想像より正確にセンリが正解を導き出したので、マダラは満足し、その口調はかなり柔らかいものだった。センリも安心したように小さく微笑んだ。
『じゃあ、あの……抱擁は、ダメ…?』
センリはそっと問いかける。マダラは予想外の言葉に面食らった。そして先程クシナの抱擁を拒否した事を思い出し、センリの申し訳なさそうな顔を見つめ、ふっと笑った。
「お前、風呂に入ったんだろう。俺に引っ付くと汚れるぞ」
マダラは二ヶ月間前線で戦いに出ていたのでさすがに遠慮をしたが、センリは正座したままそっと近付いた。
『し、したいんだもん。……ダメ?』
「お前の愛らしさはある意味、人柱力の力なんかより恐ろしい武器だな……全く…俺がお前を拒む訳なかろう」
マダラをじっと見つめていたセンリは、すぐに破顔した。センリはマダラに手を伸ばし、そっと抱きしめた。腕に当たるマダラの、ふさふさとした髪の感触が、懐かしかった。
カルマの力があるので、一日経てば体の状態は元に戻るがそれでもマダラからは、火薬のような匂いと森の中の匂い、それから少しだけ鉄の匂いがした。戦いの後のにおいだ。
『マダラ、おつかれさま』
センリの優しい声を聞いてマダラはようやく、帰ってきたという気分になっていた。やはりこの空間が、一番心地良い。センリの柔い体を抱き締め、甘い匂いに包まれているとやはり心の奥の刺々しい感情だけが無くなってしまう事は、自分自身ではどうにも出来なかった。
あれだけ苛苛していた感情が、溶かされるようになくなっていく事に気付いて、マダラはセンリの顔の横で小さく笑みを零した。
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