- ナノ -


木ノ葉隠れ確立期、発展期編

-四尾の暴走、そして終戦-



神無毘橋破壊任務が達成されると、予測通り、徐々に岩隠れの勢力が弱まって行った。マダラとミナトが千の軍勢を蹴散らした事も加わり、とうとう岩隠れが火の国の国境に踏み入る事はなかった。

タイミングを見計らって木ノ葉と砂が手を組んで岩に和平条約を申し込んだ。


―――――――――

土の国、岩隠れの里。

里の上役と土影とで緊急会議が開かれていた。


「平和条約締結の申し込み……どうなさるおつもりです?」


初老の忍が土影に問い掛ける。手元には木ノ葉隠れから送られてきた平和条約の書類が置かれている。


「当然、お断りされるのでしょうな」

「いかに木ノ葉隠れが砂隠れと組もうが、我らの一枚岩の結束には適うはずはありません」


一人の忍の言葉を皮切りに、周りの十名ほどがそうだそうだと口々に囁き出す。


「静まれい」


他の者より幾分も小さな土影が一喝するとすぐに囁き声が鎮まった。皆が土影に注目をする。

「もちろん、岩隠れの結束力はワシの誇りじゃぜ」

土影は手の中にある木ノ葉からの巻物を見つめ、ぎゅうっと握り締めた。


「しかし…岩隠れの命運をかけ、一千余名もの忍を投入して挑んだ侵攻作戦を頓挫させた木ノ葉の黄色い閃光……。それに木ノ葉には、忍界きっての実力者が二人も健在じゃぜ。今度こそは、と思ってはいたが……あの二人に傷一つつけられなかったこと、それから木ノ葉の土さえ踏む事が出来なかったのもまた事実……」


土影の言葉に上役達は押し黙る。

短期間で、岩隠れにも相当の被害を出している事は事実。それにもかかわらず火の国の国境を侵略できていない事もまた変えようのない現実だった。



「それに木ノ葉の女神によって、里の者の命が救われた事も事実じゃぜ」

「そんな事は、我々岩隠れへの侮辱ではありませんか!」

「人柱力の暴走を止めわざわざ里の側まで送り返す、我らの里の忍の治療、殺さずに峰打ち―――裏があるとしか思えぬ!そんな偽善を、信用するというのですか?」


上役の忍らが悔しそうに拳を握りしめる。噛み締めた歯の隙間から声を絞り出している。
土影は上役達の感情が手に取るように分かっていたが、その思想と、里の民の平穏ではどちらを優先すべきかどうかも理解していた。


「我々は木ノ葉隠れに確実に勝つ為に、戦争請負組織まで利用してきた……。今回の負けは、その代償なのかもしれん」

「弱腰でいてはいずれ強いものに淘汰されてしまいます。その位の事をしなければ、木ノ葉隠れには勝てませぬぞ!」


上役達は土影の言う事には否定的だった。


「そもそも木ノ葉に九尾と十尾がいるというのもバランス的におかしな話では?」

「やはりあの二人をどうにかしない限りは……――――」


「私は、平和条約を結ぶべきだと思います」


上役の言葉を遮り、たった一人、真っ直ぐな瞳で手を上げる忍がいた。その場の全員が、土影の隣に立っている若い忍へと視線を移す。土影へと書状を持ってきた偵察部隊長でもある忍だ。

その言葉の真意を探るように、土影は自身の隣立つ若い忍をじっと見つめた。


「簡単に言ってくれる。これだから若造は……――――」

「私は偵察部隊長として終戦間際まで任務を遂行していました。幾度となく状況を精察してきたからこそ、これ以上の戦いは不毛だと判断します」

「ここまで命を懸けて戦ってきた者達を愚弄するというのか?」

「そういう事ではありません」


上役の鋭い言葉にも、若い忍は動じなかった。


「木ノ葉隠れは、戦う前に、話し合う事を提示しています。私達の目的は戦い、死傷者を出す事ではなく、里の皆が安心して暮らせる生活を守ることです。対話なくして、平和への道はありません。それに、木ノ葉隠れの女神は、我々を侮辱をしている訳ではありません。絶対に」

「何だと?分かったように……―――!」



初老の上役は眉を吊り上げて言い返そうとしたが、土影はそれを手で制した。土影はかなり小柄だが、その権力と存在感は絶対のようだ。


「ワシも、これ以上の戦いは岩隠れにとっても危険だと思っとる。木ノ葉が一切の責任をこちらに要求しないと言うのであれば、その要求を呑む他あるまい」


土影の言葉を聞くと、上役達は絶望的な表情をして、黙り込んだ。反対意見を述べようにも、全くと言っていいほど打開策は見つからなかった。



「納得はいかぬかもしれんが……今は、この条約を結ぶ事で戦争は終結と行こうぞ。ワシらが守るべきは、里の皆の生活……それは本当にその通りじゃぜ。今回はお主の声に耳を傾けるとしようぞ、インテツ」


土影はインテツに向かって小さく頷いた。土影はその書状に同意の印を押して、インテツは再びそれを木ノ葉隠れに送り届けた。
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