木ノ葉隠れ確立期、発展期編

-四尾の暴走、そして終戦-



「クシナ、そのままだとお前の大事なセンリが窒息死するぞ」


センリの苦しそうな声に気付いたマダラはクシナを制した。そしてクシナは突然ハッと我に返ってセンリの身体から手を離した。



「ご、ごめんセンリ!」

『だ、大丈夫――』


センリは喉をさすりながらクシナに笑みを返した。



『心配してくれたんだよね、クシナ。ありがとう』

「当たり前だってばね!センリもミナトも前線に行ってたから…余計心配で―――」

『ほら、ミナトも……ちゃんと帰ってきたよ』



センリはにっこりしたままミナトの手を取り、クシナの手と引き合わせた。クシナはミナトを見て、また泣き出しそうな顔をした。そして今度はミナトにぎゅっと抱き着いた。ミナトは一瞬驚いたような表情をしたが、すぐに微笑んだ。



「ミ、ミナト―――おかえり…だってばね―――!」

「ん!ただいま」


ミナトは慈しむような表情をしながら、クシナの背中をポンと叩いた。



「でもオレは二番目か……」

小さく呟いたミナトに気付き、リンとカカシは目を合わせてクスクス笑った。



「相変わらず落ち着きのない奴だ」


マダラは一連の流れを、腕を組みながら呆れた表情で見ていた。クシナがハッとマダラの存在に気付く。



「マダラ先生……!」

「俺には近付くな。センリ以外の人間に触られると鳥肌が立つ」

「い、いつもながら扱いが酷いってばね…!」



本当に不快そうな顔でマダラが言うのでクシナは大袈裟にショックを受ける。しかしお陰で平常心を取り戻したようだ。ミナトは面白そうに笑いを堪えている。



『も〜、出迎えの抱擁くらいしてくれたっていいのに』


センリはマダラの隣から顔を覗き込むようにして言った。マダラは少し眉をしかめたままだ。


「そういうのはいい―――クシナ、気が済んだのならミナトの事は家で待っていろ。俺達はヒルゼンの所に報告に行かねばならん」


やれやれと言った様子でマダラが言った。



「そ、そっか……。じゃあミナト、私は先に家に戻ってるね。お腹、すいてる?」

「ううん、大丈夫だよ」


落ち着きを取り戻したクシナは、ミナトといつも通りの会話をしていた。リンもカカシもどこか微笑ましそうな顔だ。



「報告がすんだら少しオビトの顔も観て来なきゃな……カカシとリンも、もうしばらくは休暇って事でいいよ」

「分かりました」
「はい」

カカシとリンが笑顔で頷いた。



『じゃあリン!一緒に行こうって約束してたお団子屋さんに―――』

「どこへ行くつもりだ?」


センリがにっこりとリンに話しかけて一歩踏み出そうとした瞬間、後ろからマダラの腕が伸びてきて首に回された。センリの顔が引きつった。



『うっ―――え、えー、っと……ほら、無事に任務達成したって事で――』

「駄目だ」

『ええっ――』

「お前も家に帰って待っていろ。今すぐに、だ。お前が理解するまで何時間かかるか分からんからな…覚悟しておけ」

『ひぃっ』



センリは横目でそっとマダラの顔を伺い、小さく悲鳴を上げた。完全に手加減しない時のマダラの顔だ。センリが動かない事を確認するとマダラは満足して腕を離す。



「俺が戻るまでにきちんと言い分を考えておく事だな……。ミナト、行くぞ」

「は、はい」



ミナトはセンリに向かって同情するような顔を向けた後、マダラと共に消えた。
センリはがっくりと顔を下げた。



「センリ…一体何があったんだってばね…?」

「す、凄い怖い顔してましたね…?」


クシナとリンが心配そうにセンリに問いかける。


『いや……全然ヘマはしてないはずなんだけどね……あの目は五時間くらい説教する気だ…うぅ…』


センリは絶望的な目をして呟く。そう思うと家に帰るのが少し怖くなってきた。



「マダラ様がそう言うのはきっと何か理由があるはずですから……帰るまでに考えておけば、大丈夫ですよ」


まるで教師のような風格でカカシがセンリを慰めた。


『そ、そだね…。そうします…』


センリはいくらか元気を取り戻りてウンウン頷いた。


センリは少し気の毒だったが、いつも通りの日常の風景を見て、リンとカカシは心からほっとしていた。大切な人達の楽しげな表情を見ていると「帰ってきたのだ」という安心感だけが身体を包んでいく。



「センリ様、私達もお休みを貰いましたから、お団子屋さんはいつでも行けますよ!」

「そうだってばね!私も一緒に行きたいなー」

『えっ、ホント?』

「いいですね!じゃあ三人で行きましょう」

『やった!そんな楽しみが待ってるなら、五時間くらいマダラの説教聞いても全く問題ない!』



途端に嬉しそうな顔になるセンリを見て、カカシはマスクの下で笑みを浮かべた。

センリはこの後自分の反省点を思い返さねばならなかったが、またこの先に、いくつもの楽しみが待っていると分かればその時間さえも愛おしく感じてしまうのは、不思議な事だった。

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