- ナノ -


木ノ葉隠れ確立期、発展期編

-四尾の暴走、そして終戦-



尾獣化した人間が何か攻撃する気だと察したマダラが、険しい表情で須佐能乎の腕を振り被らせたその瞬間、見慣れた後ろ姿が現れた。



「センリ――――!?」



危ない、とマダラが叫ぼうとするのと、尾獣化した人柱力がとてつもない高密度のチャクラの玉を口から吐き出すのとはほぼ同時だった。

キーンと、耳鳴りがする程の力が凝縮された玉が、恐ろしい速度で飛ばされたのが分かったが、それが飛んでくる前にセンリが作り出した光の盾に吸い込まれ、まるで巻き戻されたかのように小さくなって消えていく。


「!?」



雲隠れの忍とミナトは、唐突に現れたセンリと、吸い込まれてなくなった尾獣玉を見て驚きに目を見開いた。

人柱力は低い唸り声を上げ、センリを睨みつけるようにして見ている。どうやって攻撃しようか考えているようにも見えた。赤黒い尾が四本、ゆらゆらと揺れている。



『(尾が四つ…このチャクラは、孫……)』


センリは見覚えのある孫悟空の尾の形を見て少しだけ眉を寄せた。憎悪に染まっているような、チャクラの感じだ。



『マダラ、ミナト、少し離れていて。攻撃しないで』


センリは後ろの二人を見ずに素早く言った。
辺りはおぞましい力で溢れ、異様な空気だ。相当の手練の忍でも恐らくは足が震え、動けない程だろう。

ミナトは冷や汗をかき、センリの実力を知っているマダラでさえ、少し焦りを見せている。



「しかしセンリ様――さすがに、“アレ”は―――」


ミナトが珍しく狼狽えた様子で言った。マダラも須佐能乎を出したまま敵意丸出しの表情で人柱力を見て、眉を顰めている。

それとは裏腹にひどく落ち着いた様子のセンリの様子は分かってはいたが、マダラはそれでもすぐには引き下がらなかった。



「センリ、一体何をしようとしている?まさか丸腰で“アレ”を止めようとしている訳ではなかろうな」


マダラの声はいつもより低く、鋭い。センリがどうやって物事を解決しようとするのか嫌という程に理解していたマダラは、警告するような口調だ。
センリは人柱力に近付き、前に言っていたような護符か何かを貼り付けようとしているのではないかと予想していたマダラは、どうにかそれを思い留まらせようとしていた。いくらセンリであっても安心出来ない程の凄まじいチャクラが、人柱力からは放出されている。力で押さえ付ける他方法はないように見えた。

マダラの言葉を聞いたミナトはハッとしたように目を見開く。



「無理です、センリ様…!ここは力づくでも――――」

「センリ、馬鹿な事を考えるな。暴走した人柱力には少し近付くだけでも危険だ。俺が抑えつける。お前はその後に行動すればいい」

『……』



マダラはセンリを止めようと、センリに近付くように一歩足を踏み出した。
しかしセンリは背後にいる二人に、鋭い眼差しを向けた。センリの髪がふわりとなびき、周囲の空気が歪むような感覚がした。



『下がりなさい、マダラ』



たった一言、言われただけだというのに、マダラは無意識に踏み出した足を止めていた。


「!―――――」


センリに近付くのを踏み止まってしまう程の殺気だ。こんなにも鋭い口調のセンリを、マダラは見た事がなかった。
一瞬センリが氷遁を放って自分達の動きを止めたのかと思ったが、身体には氷ひとつない。極限まで研ぎ澄まされた、畏怖を感じる程の威圧感だ。

あまりの圧力に、マダラは生唾を飲んだ。自分の意思云々ではなく、頭の片隅で勝手に本能が「近付けば殺される」と警鐘を鳴らしているようなその感覚は、マダラの中でかつての親友の姿を思い起こさせた。
その少し後ろにいたミナトはこちらもまたたじろぎ、無意識に半歩後退りしていた。雲隠れの忍も動かない。


数秒にも満たない時間だったというのに、その周辺の空気が凍りつき、誰もが行動する事が出来ずにいた。

そしてその強大過ぎる圧迫感に勘づいた四尾の人柱力が、センリ達に向けて咆哮した。「グォオオオ」という、人とも獣とも区別がつかないような叫びが、疾風になってセンリに降りかかる。

センリは目を細めて人柱力の忍を見た。白銀の髪がバラバラと風に舞う。

センリは背後の人間達が手を出そうとしていない事を確認し、マダラ達の方に手のひらを向け、守るように腕を伸ばした。



「!」


空間が歪んだように揺れ、すぐに元通りになった。写輪眼だったマダラには、自分達を守るようにセンリが守りの結界か何かを施したのが分かった。

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