- ナノ -


木ノ葉隠れ確立期、発展期編

-四尾の暴走、そして終戦-



センリが再び前線へと戻る幾分も前―――ちょうどセンリがオビトの状態を元に戻し終えた時、すでにそこでの戦闘は終わりを迎えていた。

ミナトが加わった事により畳み掛けるように岩隠れの忍達を引かせた。マダラとミナトの前には千以上の忍達も退かざるを得なくなり、マダラの宣言通り誰一人として火の国の国境を跨ぐ事はなかった。



「マダラ様、もう少しここでセンリ様を待ちますか?」


皆の様子を見て、どうやら全員が体力的にも問題はなさそうだと判断したミナトが、マダラに問いかける。この時点ではまだセンリは戻っていなかったが、マダラは小さく首を横に振った。



「いや……このまま木ノ葉隠れに帰還すべきだ。あいつは神無毘橋からここまでの最短ルートを使用するはず…向こうで戦闘になったとしてもセンリならば数秒だろうからな。木ノ葉隠れへ帰る道中で落ち合えるだろう」


相変わらずセンリを信頼している様子のマダラを見てミナトは小さく微笑み、頷いた。


「分かりました。センリ様が神無毘橋に向かわれたのなら心配はいらないでしょうから…我々も木ノ葉隠れに戻りましょう」


前線の戦いでは木ノ葉隠れに死傷者は出ていなかった。ミナトは岩隠れの忍のいくつかの死体に視線をやり、そして忘れないように記憶に刻みつける。
その様子を横目で見ていたマダラは同じように惨状に目を移した。


「……これで、今回の戦争は終わるでしょうか」


ミナトは、その光景を見つめたまま小さく呟いた。



「恐らくはそうなるだろう。ほぼ全戦力を注いで臨んだ闘いも徒労に終わり、神無毘橋も破壊された…。岩隠れに残された道は、木ノ葉からの条約を呑むという選択ただ一つだ。オオノキの小僧も、そこまで馬鹿だとは思いたくはない…」


三代目火影よりもいくつも歳上の土影を小僧と呼ぶマダラを、ミナトは少し目を瞬かせながら見ていた。マダラは少し憂うような瞳をしていた。


「そうですね……」


先程までのマダラの鬼神の如き戦いぶりからは想像もつかない眼差しにミナトは少し面食らっていた。ただ、その憂いの中の感情がどんなものなのかも、少しだけ分かるような気もしていた。



前線の忍達を引かせ、神無毘橋も破壊したとなれば岩隠れはもうこの大戦からは手を引くしかない。

木ノ葉隠れの忍達も安堵したように一息つき、疲れが溜まっていたマダラとミナトも、残った者と共に早急に木ノ葉隠れに帰還した。


ただその帰路も、平穏にとはいかなかった。



マダラとミナトが忍達を連れて木ノ葉隠れに向かおうと、草隠れとの国境付近を後にしてすぐだった。

二人ともその異様な気配を、ほぼ同時に察知していた。


国境をわかつ森に入る直前、だんだんと木々が増えていく中で、マダラが忍のチャクラを感知したその何十秒か後だった。突然前方から数人の忍が姿を現した。

一同は瞬時に戦闘態勢をとったが、すぐにどうやら違うようだとマダラは気がついた。



「!――――マダラ様!ミナトさん!」


かなり焦った様子で姿を現したのは、木ノ葉隠れの忍達だった。マダラとミナトの姿を見ると縋るような表情で近寄ってきた。
一体何事かと、一瞬マダラとミナトは目を合わせた。近付いてきた四人全員が切羽詰まった様子だ。そのうちの一人は腕に切り裂かれたような傷があり、苦悶の表情でそれを押さえて止血していた。


「戦闘ですか?」


二人は隊を止めて、現れた木ノ葉隠れの忍達にミナトが問いかける。


「いえ―――私達は偵察部隊です。マダラ様達の様子を見にきたのですが―――道中にトラブルが―――」

「岩隠れの人柱力が暴走したのです……!」

「!」


くノ一が息切れしながら伝えると、マダラとミナトは表情を変えた。着いてきた忍達も、疑問そうな表情から、まさかという顔色に変化した。



「木ノ葉の奴らはこれで全部か」

少々早口にマダラが問いかけると、くノ一が目に涙を浮かべながら首を横に振った。



「この先に、まだ二小隊が――――」

「行きましょう、マダラ様」


すぐに涙の訳が分かったミナトはマダラに向かって言うと、マダラは素早く頷いた。



「他の方は、ここで待機していて下さい」

「で、ですが…!人柱力の他に雲隠れの忍達も――――」

「問題ない。むしろ他の砂利がいては足手まといだ」


焦るくノ一達とは裏腹に冷静なマダラとミナトを見て、先程まで戦っていた者達はそれをそっと制した。



「大丈夫だ。オレ達はここで待機していた方がいい――――」


猿飛一族の忍がくノ一の肩に手をかけた瞬間「ギャアアア」という、地響きのような鳴き声が聞こえた。マダラはすぐにそれが何かを理解した。尾獣化して暴走している人間の声だ。



「行くぞミナト」

「はい…!」

「お気をつけて―――!」


それ程離れていない距離から聞こえる叫び声にミナトは眉を顰め、早々にマダラと共に姿を消した。
[ 61/169 ]

[← ] [ →]

back