木ノ葉隠れ確立期、発展期編

-死した白い牙と新たな世代-



ミナトも上忍になり、自来也はもう自分の教えは必要無いと判断し、また放浪の旅に出ると言って木ノ葉を旅立つ事になった。

その理由はいくつかあったが、噂で弥彦達が死んだと聞いたのが大きな要因だった。

噂を聞いてからすぐに自来也は真相を確かめに妙木山の蝦蟇を送り出したが、やはりそれが事実だと知る事になった。

雨隠れに潜入し、そこを納めていた忍が「三人を殺した」と言うのを聞いてきたようだ。自来也からそれを聞かされた時、まさかという思いがセンリにあったが、悲しいのは自来也も一緒だった。

僅かな時間だったかもしれないが、三人の姿は今でも鮮明に覚えている。歳を考えればまだ十五、六歳で死んだ事になる。三人を殺したのは雨隠れを治める山椒魚の半蔵だが、どうやって殺されたのかまでは分からなかった。

十中八九雨隠れの政権を巡って弥彦側が戦いを挑んだのだろうと予想していた。世を変えられる力があると自来也は信じていたが、その思いも叶わぬものとなり、また旅に出る事を決意したのだ。



『予言の子、探しに行くんだね』


朝日が登って間もなくセンリは自来也を見送りに正門に来ていた。自来也は下駄の先でトントンと地面を叩いて、長いはくはつを揺らして頷いた。


「はい。しかし、今回は少ししたら里に戻って来ようと思っております」

『そうなの?でも、確かに自来也がいないとつまらないからね。マダラだってほんとは寂しがってると思うし』


センリは手で口元を隠してコソッと自来也に伝える。見送りに来なかったマダラだったが、良き話し相手でもある自来也がいなくなれば寂しがる事くらいセンリには分かっていた。


「ハハッ、そう言って貰えるとは光栄ですなあ。まあ、心配せずとも二、三年くらいで戻ってきます。少し気になる事もありますので…」


気になる事、というのが最近めっきり姿を見せなくなった友の事だと言うのはセンリには言わずに自来也は笑って頭を下げた。


「それでは、センリ様、また」

『うん、いってらっしゃい。気を付けてね!』


母親のように微笑んで手を振るセンリに笑みを向けてから自来也は歩き出した。



――――――――――――――

輪廻眼を持つ長門が戦死したという事についてはカルマも心惜しい様子だった。

何年か前に「マダラと話がある」と言って実体化してから姿を見せなかったカルマだったが、この時ばかりは現れて無念のため息を吐いていた。



『まさかあの子達がやられるなんて…長門にきちんと輪廻眼の力を教えておくべきだった』


センリの悔しそうな様子に、カルマも小さく頷いた。


「御主の話だとまだ輪廻眼を理解しておらぬようだったからな…。輪廻眼の力を操り制するには、相当の知識と能力が必要であろうから…それを扱えなかったと考えれば、戦って殺されるというのは有り得ぬ事ではない」


カルマは、センリの頬に一筋、静かに涙が光るのを見た。センリの性格をよく知っていたカルマは、何も言わずにそっとその背中に手を当てた。


『あの子達が雨隠れを変えたかったという思いは、ちゃんと受取らなきゃいけない。今までよりもっとあの里の周辺に気を配らないと』


忍達の戦いの犠牲にならないようにと今までも気にしていたセンリだったが、これからは分裂体もなるべく雨隠れ周辺に派遣させようと決めた。

次の瞬間には何とか悲しみを乗り越えようとするセンリを見て、心配の念よりも、カルマはどこか誇らしい感覚になっていた。



「その時その時に出来る事を考えていけばよい。御主には……御主の悲しみを受け取ってくれる存在があるのだから」


センリはカルマを見て、少しだけ驚いたような表情をして、その後に小さく微笑んだ。



『カルマ…随分マダラの事を信用してくれるようになったんだね』

「確かに最初は勘ぐっていた節があったのかもしれぬ…彼奴はあのインドラの転生者だったからな…。しかし、その先にある暗い運命は、御主が切り崩した。うちはマダラもそれを受け入れておる…。この何十年かで、彼奴からの無償の愛は御主に途切れることなく注がれていると実感出来たのでな」



表情の乏しい人間体のカルマだったが、それでもその声音は柔らかく、それがマダラに対する信頼の証だと思えてセンリの心は少しあたたかくなった。

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