- ナノ -


木ノ葉隠れ確立期、発展期編

-新しい命-



『マ、マダラ…噛まないで……』

「ふむ……そういうふうに言われると、むしろ一層やりたくなってしまうな…」


声を押し殺しながらセンリが懇願して言うが、マダラは全く聞く耳を持たずだ。それどころかより昂っているように思えた。


『え、ええっ、なんでなの……!じゃ、じゃあ、噛み付いてもいいです!もっと噛んで下さいっ…!いっ―――!?』


それならばとセンリは考えて真逆の事をしたが、今度は反対側の首筋に鋭い感覚が走った。



『なんで…!?』

「お前が噛んで欲しいと言ったんだろう?」

『ひ、ひどい…!言ってる事がめちゃくちゃだ……―――ぅ』


マダラの事なので加減はしているとはいえ、やはり痛いものは痛い。戦場であれば気付かぬほどの痛みなのに、こういう時はどうしても感度が上がり、それによって感覚も鋭くなってしまう。

しかしその痛みさえも甘美な快楽に変わってしまうのは、センリにはもうどうしようもない事だった。


『もう……なんでいつもマダラは……んっ、そういう事を…するの?』


首筋に口付けながらも、器用に帯紐を解き始めたマダラにセンリが問いかける。マダラが口付ける度に身体が小さく跳ねた。



「お前が俺のものだという、目に見える証になるからだ」

『あ、証って……』

「本当なら生涯消えること無く残したいものだ。誰の目にも分かる様に、はっきりと……。お前にいくら痕を残しても、起きた時には既に消えているからな…」



顔のすぐ下辺りから聞こえるマダラの声は、どこか切なそうでもあった。


『そ、そんな事しなくても……私はマダラのなのに……』


何だかマダラを元気付けたいような感情になり、センリは少し硬めの髪を撫でた。マダラは顔を上げ、センリをじっと見つめる。



「………その言葉、中々良いな。センリ、もう一度言え」

『えっ?なにを―――?』

「お前が誰のものなのか、もう一度言ってみろ」


マダラはセンリの頬を指の背でなぞり、唇まで辿り着くと親指で下唇をそっと撫でた。



『うぅ…ほんとに、いじわるばっかりするんだから……――』

「…………言えんのか?」


少し見下したような高慢な表情をするマダラを見てセンリは一度視線をずらしたが、結局鋭い瞳まで戻ってきた。



『わ、私は―――私は、マダラのもの、です…』


センリが小さな声で言うと、マダラは満足気に口角を上げた。



「ふ………その通りだな。お前の心も――身体も――これからの未来も――…総て、俺のものだ」

『な、なんて傍若無人な……』

「…何だ、違うのか?」


センリが苦言を呈すと、マダラは少し残念そうに問いかけた。センリは少々焦って、小さく首を横に振った。


『ち、違わない、よ……私はマダラが大好きだし……マダラになら、何されてもいい、もん……』

「そうか、なら何の問題もないな」

『ええっ!?い、いくらなんでも切り替え早過ぎない…!?』

「そんな事はない。お前の気持ちが離れて行ってしまったのかと思って、悲しかったぞ」

『そんなわけないよ!私はマダラの事しか考えてないもん―――』

「それなら大人しく俺の下で鳴いていろ」

『鳴っ、……もう…絶対からかって遊んでるでしょ………』

「“俺にならなにされてもいい”のだろう?」



やはり年々マダラの意地悪さが増してきている気がした。それを許してしまっている自分自身が、センリは悔しかったので、少しだけ睨むような目を向けた。


「ふ……それで威嚇しているつもりか?可愛さが増しているだけだぞ」



センリが眉を寄せて上目遣いをして、目一杯怖い顔をしている様子が可笑しくて、マダラはつい微笑んだ。
そしてマダラは面白そうに口角を上げたまま、センリの手首を持って体を起こした。センリは脅しの表情が効いたのかと一瞬喜びそうになったが、違うようだった。


「お前、本当はあんなにも強い殺気を出せるのだから、本気でやれば俺を抑える事など容易いだろう」

『殺気―――?』


センリは一瞬何のことだか分からずにきょとんとしたが、すぐに孫悟空の人柱力の暴走を止めた時の事かと思い出した。怒っていたわけではないが、確かに人前であんなに鋭いチャクラを出してしまったのは初めてかもしれない。


『もしかして、あの時のこと…怒ってる…?』


マダラの口調は鋭い訳ではなかったが、センリは申し訳なさげに眉を下げた。
しかしセンリの考えに反してマダラはどこか満足げだった。



「いや……むしろ興奮した」

『興奮!?なんで!?』


予想外過ぎる言葉にセンリは驚いて目を丸くした。マダラの言う事は、たまに突飛だ。


「足が踏み出せん程の殺気を感じたのは柱間以来だったからな…。お前があんなにも威圧感を出せるとは…知らなかったぞ」

センリは心底動揺していたが、マダラは楽しげに目を細め、そしてふと考えるように視線を上にやった。


「そういえば…まだ里ができる前に、うちはと千手が協定を結ぼうとした時――あの時もお前からは“本気の”殺意を感じたな」

今度はセンリも少し記憶を遡った。もう何十年も前の事だったが、思い返せばすぐにその記憶は見つかった。

『うちは一族のところに柱間が来た時?』

「そうだ」

マダラは視線をセンリに戻してこくりと頷いた。


「あの時お前は必死に演技をしていたようだがな…」

『そうだね…。嘘をつくのに必死だったから』

「この前の殺気も嘘なのか?」

マダラは少しニヤッとしながらセンリに問いかけた。センリは考えたが、確かに昔の時とは違ったかもしれない。


『嘘…っていう訳じゃなかったと思うけど…』

「なら本気で俺達を牽制していたのか?」

『う、うん――?まあそういう事になるの、かなあ?ねえ、マダラ…なんでそんなに嬉しそうなの…?』

「素晴らしい殺気だったからだ」

『全然意味が分からないんだけど!?』


あの時の圧力的なセンリと、間抜けな表情で面食らっているセンリが同一人物とはとても思えず、マダラは可笑しくなった。

マダラはそんなセンリをじっと見つめながら、今度は顎に手を当て考えるような仕草をした。


[ 87/169 ]

[← ] [ →]

back