- ナノ -


木ノ葉隠れ確立期、発展期編

-神無毘橋の奇跡-



『気になってたんだけど…―――』
センリはマダラの方に向き直る。


『倒れてる人達…岩隠れじゃない人もいるよね?』


治癒を終えた影分身を消し去ったセンリは、現状を把握してそう問いかけた。


「そうだ。あれは岩隠れが雇った戦争請負人だろう」

『戦争請負人?そんな人がいるの?』
センリは渋い顔をした。


「各国の重罪人や、殺しが好きな連中にとっては大層金になるだろう。雇った側も戦力強化できる。今回の岩隠れは、恥も外聞もかなぐり捨てて戦勝したいようだな。あんな下等な組織に頼り始めるとはな」

『そこまでして勝ちたいんだね…』

「でも、確かに奴らの強さは抜きん出ていました。マダラ様の言うように人を殺す事に何の躊躇もない人間――――それどころか楽しむような奴らでしたし」


それを聞いてセンリは不快感と悲しみを露わにした。



「まあ…こちらとしてはむしろ気兼ねなく殺れるのでその方が良いかもしれんがな」


マダラは何となしに言ったが、忍達は少し顔を引き攣らせた。自分達では到底相手にならないだろう実力の人間をいとも容易く、それも余裕をもって打ち負かしたマダラの姿を思い出し、味方ながら恐れる部分もあった。



「しかし……術の精度は変わらずだな、センリ」

ふとマダラがセンリを見て言った。先程の氷遁の事だろうとセンリは薄く微笑んだ。くノ一の一人がまるで憧れの視線をセンリに向けていた。


「あの人数で繰り出した地割れをあれ程簡単に止められるなんて…」

「岩隠れの砂利共を相手にするより、お前が舞うのを見ていた方がよっぽど有意義だな」


怪我を治してもらった忍も感嘆して言ったが、相変わらず戦う事に面白さを見出そうとするマダラの言葉を聞いて、センリは苦笑いした。



少し体を休められたようだったが、時間は限られている。いつ先程の忍達が戻ってくるか分からない。


『それでね、マダラ――――――』


センリは早々に話さなければと思い、マダラに向き直って、手短にヒルゼンからの作戦を報告した。


「なるほど…――もう、かなり近場まで侵攻してきているな……センリ、神無毘橋に向かったのはカカシの他に誰がいる?」

『神無毘橋を破壊するだけだから、カカシの他にオビトとリンだよ』


マダラはそれを聞いて眉を顰める。


「それはまずいな…。先程の岩隠れの者の話だと神無毘橋付近にも岩隠れが待機している。それにそこには万が一の為増援を向かわせているとの事だ」


今度はセンリが顔をしかめる番だった。


『それ、本当?』

「ああ、写輪眼で聞き出したから間違いない」

センリは考え込むように俯き、思考を巡らせた。神無毘橋付近に敵が潜んでいる事を何とかミナトとカカシ達に知らせなければと思ったが、もしかしたらもう別れてしまったかもしれない。分裂体を作り出そうにももうすでに他の戦場で戦うのに使ってしまっている。

するとセンリの芳しくない表情を見てマダラが口を開いた。


「ここは俺に任せてお前は神無毘橋に向かえ」

突然の言葉にセンリは驚いてマダラを見上げるが、決して冗談ではないようだ。


『でも、』

「俺の事なら大丈夫だ。体も十分休められた。問題は無い」


しかしそれでもセンリは心配そうにマダラを見ている。センリがカカシ達が気がかりで仕方ない事くらいマダラには分かっていた。

マダラはセンリを安心させようと普段の余裕そうな笑みを浮かべた。


「それにもうすぐミナトも前線に加わる。“黄色い閃光”と二人であれば、次に攻め入ってくるだろう千の忍達などほんの一瞬だ。あいつは中々に頭の切れる男だからな」

『マダラ……』


膝に手を当てて立ち上がるマダラを見上げてセンリの瞳が揺れた。無理をしているだろう事はセンリにも分かってはいたが、自分の意思を組んでくれたマダラにそれは言えなかった。


「早く行け、センリ。案ずるな、和平条約をオオノキの小僧の目の前に叩きつけるまでここからは一歩も通しはせん」


マダラの強い眼を見返してセンリはやっと頷いた。

『ありがとう、マダラ。すぐに戻ってくるから』

「その必要が無い事をすぐに証明してやる」


マダラは自信げに口角を上げながら言った。

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