木ノ葉隠れ確立期、発展期編

-新しい時代と人柱力-



終戦に持ち込んでからようやく戦死者全員の建墓が済み、センリはマダラと共に献花に訪れていた。自来也とヒルゼンも一緒だった。

センリは花立に持ってきていた花の束をそっと挿し、手を合わせて黙祷を捧げた。



「もう六年も経つのですね」

同じく手を合わせ終わったヒルゼンが呟くように言った。


「あの時は戦争も始まったばかりの頃だったからな」

『ホント、時が経つのは早いね……。イズナ、扉間くん、二度目の戦争は終わったよ。二人が見たかったものは、私達がしっかり見て行くから、安心してね』


センリは穏やかに言って、墓石を優しく撫でた。それに返事をするかのように、花達が風に揺れる。

ヒルゼンと自来也は、センリの心地よい声音に耳を済ませるように目を閉じていた。


「(イズナ…お前の意志は、この先必ず、受け継いでいく。お前から貰ったこの眼と共に……。お前と過ごした日々、お前の兄であった事、お前が生きた証……絶対に忘れない)」


マダラの脳裏に、二人の最期の姿が過ぎる。つい先日の事のように鮮明に憶えていた。今では悲しみより、感謝の感情が溢れるのは、不思議な感覚だった。



「お二方とも、素晴らしい忍でした」

ヒルゼンが風に揺れる花をじっと見つめながら言った。ヒルゼンの記憶にもまた、二人の勇姿が強く焼き付いていた。


「他里を牽制出来たのも、二代目様の強さと立ち回り故だったのでしょうな」

自来也が敬意を持って墓石を見つめた。


「扉間の速さは、センリを除けば忍一だった。それについて行く事が出来たイズナも、妙妙たる腕前だ。あいつらは本当に良くやっていた…」

「ええ。お二方はとても息が合っていましたから」

『喧嘩するほど仲が良いって、二人のためにあるような言葉だったね』


センリが微笑むと、マダラとヒルゼンも少し笑みを浮かべた。


「喧嘩、ですか。あまり想像が付きませんのォ。二代目様は沈着な方でしたし、イズナ様も穏やかな方と聞いておりましたが…」


自来也は十六から放浪の旅に出ていた事もあり二人の記憶は曖昧のようだが、眉を上げ不思議そうな表情をしていた。
センリはマダラと顔を見合せ、くすりと笑った。


『いやあ、イズナは扉間くんに対しては厳しくてね…いつも口喧嘩してたよね。ねぇ、ヒルゼン?』

「確かにそうですな。しかしあれも、お二人が仲が良い証拠ですよ」

「まあ、口喧嘩というより……一方的にイズナが突っかかっていた事は否めんな……」


ヒルゼンは当時を懐かしむような表情を見せたが、マダラは少し眉を寄せていた。


「そうだったのですか。それは意外です…。ですが、戦いになるとコンビネーションは抜群でしたから、やはりお互いに信頼し合っていたのでしょうなぁ」

『扉間くんはイズナの戦術に合わせるのが上手だったからね』

「戦国時代にやり合っていたのが役に立ったな」


過去の事である戦漬けの景色を思い出し、マダラはふっと笑った。


「しかし…そう考えると、二代続けてご兄弟同士で火影と側近とは、中々ない事ですなぁ。しかもそのご兄弟全員が忍としてトップレベルとは……巡り合わせ、というものですな」


自来也は感慨深げだ。確かに、とセンリもヒルゼンも頷いた。マダラは少し視線を上げ、初夏の風が吹き始めた青い空を見た。


『柱間はホントに凄かったからね』

「そうだな……柱間には、奴が死ぬまで勝てなかった」

「マダラ様がですか?」


マダラの呟きを聞いて、自来也は不意をつかれたように目を丸くさせた。


「未だに奴以上の忍とは出会った事がない。あいつの強さは、普通の忍の物差しでは測れんだろう。柱間と戦った事を思えば、今の忍共との戦闘など児戯に等しい」


マダラは半ば呆れたような言い方をした。しかし柱間の強さを知っているヒルゼンは神妙な顔でウンウンと小さく頷いていた。


「戦時中でも負け知らずのマダラ様よりお強いとは……さすがは“忍の神”と呼ばれた方ですのォ」

「それを言うならセンリなどそもそも本気を出した所を見た事がないがな」


マダラはじとっとセンリを見た。マダラの意味ありげな視線に、センリは苦笑いした。


「なるほど……センリ様は謙虚でいらっしゃる!」

『アハハ…まあまあ…。ほら、楽しみは多い方がいいでしょう?』

「能ある鷹は爪を隠す、と言いますから」


自来也とヒルゼンは明るく言ったが、マダラはどこか納得いかなそうだ。それがまるで子どものように見えて、センリは破顔した。


『そういう事!んもー、マダラってば、そういう事ばっかり言ってるとイズナが心配するよ?「また兄さんはセンリ姉さんを虐めてるな?よし、扉間!水遁だ!」って言ってさ。土砂降りが来るよ』

「それは…中々…良いですな…――」


センリは大袈裟にため息をついてやれやれ、という動作をした。隣で自来也が笑いをこらえる。


「違うな。「また姉さんが馬鹿言ってるから豪火球」、だな」

『豪火球!?怖いよ!そんなもの空から降らせないでよ!』

「天泣」

『もっとダメだよ!』

「ククッ……お二人の会話を聞いていると、良いアイデアが思い浮かびそうです。今度は二代目様とイズナ様の自伝でも書きますかのォ」

「それは良いな。きっと素晴らしい物語が出来るに違いない」



楽しげに笑う自来也を横目に、ヒルゼンは嬉しそうに頷いた。


『いいね!情報なら私達が提供するよ!題名はそうだな……“クールだけど情熱的!二代目火影と、意地っ張り恥ずかしがり屋の側近物語〜写輪眼と飛雷神を添えて〜”っていうのはどう?』

「ハッハッハ、完璧なタイトルですなァ!」

「大名との食事会の中でそんな名前の料理が出てきた事がありましたな」

「……扉間もイズナも成仏出来んだろうな」



扉間もイズナももうこの世に居ないが、この先もこうして何度も何度も二人の話をしていくのだろう。二人が生きていた事を思い出し、言葉にし、幸せだった記憶を甦らせる。二人が生きていた記憶も証も、決して無くなることはないだろう。

穢土転生よりずっといい方法だ、などとふと思いながら、マダラは最後に後ろを振り返った。

花立から除くナズナの白く小さな花が風に揺れて、さわさわと小さな音を立てている。
イズナが笑ったような気がしていた。

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