木ノ葉隠れ確立期、発展期編
-新しい時代と人柱力-
クシナは木ノ葉隠れに引っ越してきてからは、基本的には自分の屋敷に帰っていたが、たまにミトのところやセンリのところなどを行き来しながら生活していた。
クシナが次の人柱力だという事を知っているのは、センリとミトの他にヒルゼンとマダラのみだ。クシナの情を分かっているミトはもちろん、何度も相談に乗ったり話を聞いてやったりしていたが、マダラとはまた違った方法で関係を築いていた。
センリの本体がいない間、マダラは体術…つまり喧嘩相手の倒し方をクシナに指導していたのだ。最初からマダラの事を怖がっていなかったクシナは、どんなに厳しく教えられようと決して音をあげなかった為、マダラの方も珍しく相手をしてやっていた。
「…―――それでね、マダラ先生が教えてくれた方法で相手の後ろをとって蹴り入れてやったら、あいつってば速攻でやられてたんだってばね!」
「ならそいつも大した事はないな。あの程度の技で背後をとられるなど…」
「ホント、あの程度で私に文句言ってくるなんて………次に卑怯な手を使ってきたら絶対に返り討ちにしてやるんだってばね!先生、次は複数人を一度に相手にする時の倒し方を教えて!」
「その程度の奴らだとしても、複数となるとかなり難しいぞ」
「大丈夫だってばね!」
マダラの事を先生と呼び、喧嘩で勝った暁にはクシナは必ずその旨を報告しに来ていた。クシナの勢いにはたまに呆れていたマダラだったが、指導するのも嫌々ではなかったし、“先生”と呼ばれる事も不快だという訳でもなかった。
むしろ、恐れも狼狽えもせずに接してくるクシナを気に入っているのかもしれないとセンリは思っていた。
『あの時のすんごいラリアットって、もしかしてそういう事なの……』
分裂体から聞いた記憶を思い出し、センリは引き攣った笑みを浮かべて一人呟いた。
『クシナ、ほどほどにね…』
あまりにも殺る気満々といった様子のクシナを見てセンリはまあまあと制した。これでは逆にミトを心配させてしまうかもしれない。
「センリはそう言うけど、私はまだまだ足りないんだってばね!だってあいつら、すっごい意地悪で卑怯なんだから!」
縁側の外に立ったまま、クシナは怒りを露わにして拳を突き出した。
「自分より力が劣っていそうな人間をわざわざ囲むような奴らに、情けなどかけてやる必要はない」
「そうそう!マダラ先生はやっぱりいい事言うってばね!私の班の先生にも見習ってほしいくらい」
『確かにマダラはいい事言うけど……でも時には、その場の感情で動きすぎない事が大事な時もあるからね。クシナなら大丈夫だと思うけど』
スリーマンセルを組むクシナの担当上忍は穏やかで温和な猿飛一族のくノ一なので、クシナには物足りないようだ。
センリが縁側に座ったまま、目の前に立つクシナの手をそっと取って言った。
「うーん……―――分かったってばね」
クシナは少々考え、少し照れたようなはにかみを見せた後、渋々といった様子で頷いた。
「まあ、火影になりたいというなら、多少感情を抑える事も必要だろうな」
「はい!私、先生みたいな、強くて優しい忍になれるように頑張るってばね!」
クシナの単純さに呆れながらも、マダラは薄く微笑みを見せた。マダラを「優しい」と表現するクシナを見て、センリもそっと笑った。とても嬉しい事だった。
「でも……マダラ先生はどうして火影にならないの?みんな、マダラ先生の事、すっごく強いって言ってるのに」
センリがクシナの手を離すと、クシナは心底不思議そうに問いかけた。
「大勢の前に立つのは、性に合わん」
「リーダーになって、みんなを引っ張っていくのが苦手なの?」
「まあ、そんなところだ。それに…火影になるのは皆から慕われるような奴がいい。俺は怖がられる事の方が多いからな」
『マダラはこう…威圧感があるからね。特に子ども達は怖いんでしょ。ホントはそんな事ないんだけどね!』
センリが面白そうに言うと、マダラは少しムッとしたように眉を寄せた。マダラ自身では特にそうしている訳では無いので少し不本意だった。
「それはみんなマダラ先生の事をちゃんと知らないからだってばね。ミト様だって先生の事、“とても優しい人だ”って言ってたもん!」
クシナが真剣な表情で言うので、一瞬マダラは面食らったように目を瞬かせる。ミトがクシナにそう話して聞かせているのが想像出来て、センリの心はほう、とあたたかくなった。
「それにセンリもそうだし……マダラ先生だって私の味方をしてくれるから、私…それがとても嬉しいんだってばね!」
引っ越してきた直後よりほっそりしたが、それでも笑った時に少し膨らむクシナの頬は、センリが大好きな表情だった。クシナの安心した顔を見ると、センリも同じように安らいだ。
「センリとかマダラ先生が現れた時のあのいじめっ子達の顔を思い出すと……すっごくおかしいってばね!」
『マダラもクシナを助けてくれたんだね』
「別に助けたわけではない」
「そんな事ないってばね!だってあの時あいつらってば本当に焦った顔して……―――」
クシナはその時の事を思い出してへへへ、と笑いを洩らした。
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