- ナノ -


木ノ葉隠れ確立期、発展期編

-ミトの最期、忘れられた記憶-



「……センリの以前の世界での事については理解した。で、お前がセンリをこの世界に引き入れた意図はなんだ?」

マダラが問いかけた。


「我が時空を彷徨い、そしてこの地を見つけた時、この世界もまた大きな変革を迎えようとしていた。我がこの地にセンリを導いたのは今から千年前……忍が誕生する遥か以前だ」

「そして千年前センリは暫くそこで生活し、そして何らかの呪いをかけられ……次に目が覚めたのが、最初に俺が見つけたときというわけか」


カルマはその通りだと頷いた。ここまでくるとマダラも理解が早かった。


「今となっては、出会った時にセンリが、忍の存在や戦の世だという事を知らなかったという事に納得が行く……それで?千年前のセンリは一体どうやって過ごしていた?」


カルマはマダラの問いかけには答えず、その表情をじっと見ていた。そしてしばらく考えた後、結論を出した。


「その事については、今は話すべき時ではない」

「…………」


苦渋の決断ではあった。カルマ自身、マダラの事はもう手放しで信用する程だったが、内容が内容だけに、かなり慎重にならないといけないと思っていた。

マダラはカルマを睨みつけたが、数秒経った後、盛大にため息を吐いた。肌の上に、確かな拒絶と、ピリピリとした何かを感じていた。「勝てない」という感覚だ。


「センリはいつか必ずその事を話すと言った。そしてそれの時期を見極めるのはお前だな?………納得はいかんが……お前からはどうやっても聞き出せる訳も無い。またお前が話す気になるまで待て、という事か」


カルマが頷いた。それを見てマダラは再度諦めの息を吐く。


「あいつの中の悲しみを今更ほじくり返したくはない。それに……今はやるべき事が山積みだからな。お前が必ず話すと言うなら、それを待つしかないようだな」


マダラは岩から飛び降り、カルマの前に立った。

「恩に着る」

珍しく素直な様子のカルマに面食らいながらもマダラはフン、と鼻を鳴らした。


「これからも御主はセンリと共にあり続ける。あの子を……どうかよろしく頼む」

「これも以前に言ったがな、誰に言われずともそうする」


ぶっきらぼうな言葉だったが、カルマはその言葉に確かな愛情を感じ、安心していた。そしてマダラはふとカルマの目をじっと見た。


「……前の世界、とやらでセンリに想い人はいたのか」


すこし迷った後に覚悟を決めて問いかけたような声音に、少々身構えていたカルマはそういう事かと表情を崩した。


「いや、おらぬ。センリは色恋沙汰に疎かった上、弟が第一だったのでな…全くそういったことはなかった。だからこの世で御主と結ばれた事に、少し驚いておる」

「………センリらしいな」


本当に弟の事を気にかけていたのだろう。センリの事が手に取るように分かってマダラは喜怒哀楽のどれともつかない表情を浮かべた。

ただそこには明らかな安堵が含まれている事に、カルマは気付いていた。


「……邪魔して悪かった」

僅かにほっとしたような色が残るマダラを見てから、カルマは微笑み、結界を解いた。途端に心地よい風がマダラの頬を撫でて行った。


「他言無用だぞ」
マダラが念を押した。

「分かっている」

マダラは服を整え、術の腕試しを再開しようとした。無駄な質問をせず、自分が理解したならもう用はないと言わんばかりの態度にカルマは苦笑した。


「…………まだ何か話があるのか?」

突っ立ったままのカルマにマダラが不機嫌そうに問いかけた。


「いや…………センリと夫婦となった人間が御主でよかった、と……そう思っただけだ」


マダラは僅かに瞠目し、それから口角だけを上げた。

「手放す気はない」

「それで良い」


カルマは微笑み、光となって消えた。センリの事を託すには、充分過ぎるくらい頼もしい存在を確認出来たカルマは、今までにないくらい安心しきっていた。

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