木ノ葉隠れ確立期、発展期編
-育ての母として-
眠っているナルトをスリングに入れ木ノ葉病院を出て、小さく歌を口ずさみながらながら歩いていると、前方に見慣れた後ろ姿が二つ見えてセンリは足早に駆け寄った。
するとセンリが近付いて声をかける前に、子どもの方がさっと振り返った。
「センリ様」
振り返ったイタチがそう言うと隣を歩いていたミコトもセンリを振り返った。ミコトの方も眠ったサスケを抱いていた。
センリは手を振りながら足早に二人に近付く。
『こんにちは。ミコトもサスケの健診?』
「ええ、そうです。センリ様は、ナルトくんの?」
ミコトはセンリの胸で眠るナルトを少し覗き込んだ。イタチはスリングからはみ出る脱力したナルトの足をそっと撫でていた。
ミコトはナルトの出生の秘密を知っている数少ない忍のうちの一人だったので、ナルトを見ても邪険にはしなかった。
『そうそう。イタチ、私に気付くのが早いね!頭の後ろに目ついてる?』
センリが悪戯っぽく笑って言うと隣でミコトも微笑んだ。
「それは、ついていません。でもセンリ様の足音ならすぐに分かります」
『そうなの?そんなに特徴的!?』
「はい。とても楽しそうな足音なので。光の精がキラキラ飛び跳ねているようです」
大真面目にイタチが答えるのを見てミコトは困ったように笑った。
『ホントに?光の精かあ。イタチは素敵な言葉を使うんだね!よしよし』
センリは自分の胸の高さほどになったイタチの頭をポンポンと撫でた。
『イタチも休みだったんだね』
「はい。数日間休みをもらいました」
「この子ったらサスケの健診に着いていくってきかなくて…」
ミコトは苦笑したが、イタチの方は「なぜ当たり前の事なのに笑ってるんだ?」とでもいいたげな表情で母親を見上げていた。
『そっかあ。だからサスケは安心して寝ちゃったんだね?頼もしいお兄ちゃんがそばにいるから!』
センリがサスケの黒髪に触れると、サスケはムニャムニャと口元を動かした。幼い頃のの時のミコトにそっくりだ。サスケの方はもうすぐ二歳だ。
ナルトもサスケも、よほどぐっすり眠っているようだった。
『サスケは本当にミコトにそっくりだよねえ。将来は美青年になるなあ』
「本当ですか?それだったら性格の方はお父さん似かもしれませんね」
楽しげに返すミコトにそっと近づき、センリは囁くように言った。
『…ナルトは今の所、性格がクシナだよ』
コソコソ声のセンリに一瞬ミコトはきょとんとしたが、意味を理解するとふふ、と笑った。イタチが不思議そうに二人を見つめている。
上忍時代の先輩と後輩だったミコトとクシナは、ナルトが産まれる前までは何度か会って話すほどの仲だった。生前の友の姿を思い浮かべ、ミコトは顔を綻ばせた。
本来ならナルトを抱いているはずのクシナがいない事に、ミコトは確かに悲しさを感じていた。そして同時にセンリがどんな気持ちで今ナルトを胸に抱いているのかも、分かっているつもりだった。
嬉しそうな表情でナルトの背中をトントンと叩くセンリを見て、ミコトはクシナを思い出していた。
「(クシナ、この子はきっと大丈夫よ)」
ミコトは心からそう思っていた。なぜなら四肢を投げ出し脱力するナルトは、なんとも幸せそうな表情で眠っていたからだ。自分を抱く存在がある、無条件に守られた世界を知っているナルトは、きっと立派な大人になるのだろう。
「センリ様、今日はお休みですか?お休みなら、一緒にご飯を食べましょう。ねえ、母さん?」
「ふふ、そうね」
『お、いいね!みんなで餃子パーティしようよ!もちろん具はキャベツマシマシで!』
「やりたいです!」
「是非ナルトくんも連れてきて下さいね。サスケの友達になってくれるかも」
ミコトはサスケの後頭部をそっと撫でた。ミコトの優しさを受け取ったセンリは、嬉しくなって大きく頷いた。
『分かった!じゃあ、ちょっと帰って準備してくるね!その後キャベツ持ってから、行くね』
センリは最後にイタチを見てにっこりしてからその場から姿を消した。辺りにはセンリの、花のような香りが漂っていた。
「センリ様は、ナルトくんのお母さんになったの?」
歩き出したイタチの足取りがほんの僅かに軽くなった事に気付き、ミコトは自然と笑みがこぼれた。母親であるミコトにだけ分かる、小さなイタチの変化だ。
「そうねぇ、お母さんでもあるし、お姉さんでもあるかもしれないわね」
「じゃあ、家族?」
ミコトは少し目線を上げ、考えた。
「家族……そうね、家族ね」
そう言うとイタチはミコトの顔をじっと見つめた後、ふっと視線を逸らした。
「そうなんだ…」
何か考え込むようなイタチの様子に、ミコトは不思議そうに首を傾げたが、その理由はすぐに解決した。
「いいな。ナルトくんが羨ましい」
小さな声で呟いたイタチの後頭部を見つめ、ミコトは気付かれないように笑みを洩らした。
下忍としての活動も始まり仲間という存在がある事を知り、イタチはどんどん大切な事を学んでいっているような気がして、ミコトは嬉しくなった。
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