- ナノ -


木ノ葉隠れ確立期、発展期編

-育ての母として-



ナルトの定期健診は毎回、木ノ葉病院の特別室で行われていた。幼子の健診とは思えないくらいの注意を払って、厳重な管理体制下で行われる。


地下にある一室を貸し切り、センリが結界を張った状態でナルトの健診を行う。暗部の見張り付きだ。


通常通りの身体検査を行った後センリはナルトを眠らせベッドの上に寝かせ、お腹の術式辺りに手をかざす。白いチャクラが溢れ出し、ナルトとセンリの身体を覆った。

同行している暗部の忍達三人は、光のような眩しさに仮面の中の目を細めた。


「(不思議なチャクラだ……)」


木漏れ日のようにあたたかく、気分を落ち着かせるような空気に暗部の忍はほう、と小さくため息を吐いた。どこかこの世のものではない、不思議な空間にいるようだった。


『うん……―――――よしっ』


センリの声に我に返り、暗部達はナルトを見やる。相変わらずスヤスヤと寝息をたてて眠っている。


『封印の方も、問題ないね!ナルトの身体も問題なし。順調順調!』


センリの明るい声を聞いて、暗部達はほっと胸を撫で下ろした。


『心音も細胞の方も全く問題なし…っと………ヒルゼンへの報告はお願いできる?』

「分かりました」


センリが巻物に書き込みをして猫のような面をした暗部に渡すと、すぐにその場から消えた。


『じゃあ戻ろうか。いつも一緒に来てくれてありがとうね、助かってるよ。えっと――――ナギ、ライ』


センリが眠ったナルトを抱きかかえながら礼を言うと、ナギとライは会釈をした。


「センリ様、私共にはそんなに腰を低くなさらないで下さい。私達は当たり前の事を当たり前にやっているだけです」


頬に緑の線が入った方の仮面をしているナギがセンリに頼み込むような口調で言った。もう一人の、赤い線が入った仮面のライも頷いた。



『だって本当にナギとライはよくやってくれてるもの!私からヒルゼンにも自慢したくなっちゃうくらい!そんな人にお礼を言うのは、それこそ“当たり前”、だよ』



センリはナルトの背中をトントンと優しく叩きながら微笑んだ。
ナギとライは共に夫婦で、ナギの方はヒルゼンとビワコの最初の息子だった。もちろんどちらもコードネームだ。
いつも熱心に任務をこなす二人にセンリも感謝していた。ただ、センリのように低姿勢で尚且つ感謝を述べる上層部は他にいないので、センリと共にいると二人とも心の中が擽ったいようなむず痒いような妙な気持ちになるのも事実だった。


「……ありがとうございます、センリ様」


ナギより少し背の低いライが言うとセンリは軽やかに笑った。


『じゃあ、ありがとうって言ってくれて、“ありがとう”!も〜、お礼の言い合いだね!これは終わりがないよ!』


鈴を転がすような声で笑うセンリを前に、二人とも不思議と心が明るく穏やかになっていた。ナギは、父親がなぜこんなにもセンリを頼りにしているのか、少し分かった気がした。


『でも最近二人とも働きすぎじゃない?二人を信頼するヒルゼンの気持ちも分かるんだけど、もう少し任務の量を減らしてもらうように言おうよ』

「センリ様にそんな事は言わせられません。火影に怒られてしまいます」


センリの提案に本当は同感だったが、それはそれでヒルゼンにとやかく言われそうな気がしていたライは首を振った。


『ヒルゼンは怒らないから大丈夫だよ!息抜きが大事だってちゃんと分かってるから。二人で休暇とってさ、デートしようよ、デート!』



なぜかウキウキとした様子のセンリを見てライは仮面の奥で笑みを零した。
一応は任務中なので他の上層部に見られたらとやかく言われそうだとも思ったが、むしろ相手がセンリなら仕方ないと言うのではないかとも思った。


「デ、デート、ですか?」

『そうだよ!お家でも町に行ってもいいし、魚の掴み取りするのもありだね!あとは本気の鬼ごっことかも楽しいよね』


夫が仮面の中で動揺しているのが分かる上に、少しズレているようなセンリのデートの内容に、ライは笑いを堪えた。隣でライが笑っているのに気付き、ナギはエヘン、と軽く咳払いをした。


「か、考えておきます……」

『デートしたいって言えば、絶っ対ヒルゼンはいいよって言ってくれるから!』


ヒルゼンなら本当に笑って許してくれるだろうと確信して、センリは満面の笑みを浮かべた。


「センリ様は、マダラ様とそのようなデート、をするのですか?」


ライは上層部の方に提出する巻物をクルクルと巻き上げながら問いかけた。

『もちろんするよ!』

ナギもライも、あのマダラがそんな事をするなどは到底想像もつかなかった。



「マダラ様は鬼ごっこは好きそうですね。きっと本気で手合わせしてくれるのでしょう」

『そそ!すごい本気だよ!写輪眼で追いかけてくるからね!』

「ほ、本当ですか……それは思ったよりも“本気”ですね」

「マダラ様と“本気の鬼ごっこ”など……私だったら怖くて動けませんね……足が竦んでしまいます」

『捕まったら最後、もうこの世の景色を見る事はなくなるよ……完全にあの世に連れていかれるね、死神に……』

「っく……笑わせるのはやめてください」


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