木ノ葉隠れ確立期、発展期編

-事件発生とオビトの弟子入り-



それからセンリが目覚めた時には病院のベッドの上で、すぐ横に自来也が窓に寄りかかって立っていた。森で倒れていたところを自来也が連れ帰ってくれていたようだ。


「お体は大丈夫ですか?」

『うん…。問題ないよ。怠さもないし…大丈夫』


センリが起き上がるのを自来也はそっと手伝った。本来なら致死量の毒だったが、数時間でセンリの中の毒も噛まれた痕も綺麗さっぱり消え去っていた。あまりの回復の速さに自来也も驚きを隠せなかったが、それよりも今は自身のかつてのチームメイトが不安の種だった。


「大蛇丸の奴は木ノ葉を恨んでおります。襲撃してくるやもしれません」

『木ノ葉を…』


センリは昨晩の大蛇丸の言葉を思い出し、そして目を伏せた。そんな事をするなど思いたくはなかったが、大蛇丸が里抜けした事だけは紛れもない事実だった。


「仲間の異変に気が付けなかったのは…ワシのせいでもあります」


珍しく落ち込んだような自来也の声にセンリは顔を上げる。


「木ノ葉には抜け忍を始末する部隊はありませんが……ワシはこれから大蛇丸の動向を探ろうと思っております。あいつが何処にいるのか検討もつきませんが…野放しにしておく訳にもいきませんからのう」

『そっか…』


霧隠れには抜け忍の暗殺専門の追い忍という部隊があるが、木ノ葉ではそういったシステムはない。しかし大蛇丸には注意を払った方がいいと判断し、自来也は決めたようだった。

自来也が自分の不甲斐なさを痛感している事は分かっていたのでセンリは安心させるように微笑んだ。


『次は絶対、きちんと話をしよう。大蛇丸くんと』


自来也は僅かに瞳を見開き、ベッドに腰掛けるセンリを見た。


『大蛇丸くんが里抜けしたのは、きっと何か理由があるはず。人体実験だなんて非道な事をしていたのだって……。きちんと話し合って、私たちの思いも、自来也の思いも、分かってもらわなきゃ』


反逆者である以上、仲間だったという事実は消し去らなければならないと思っていた自来也はセンリの言葉と真っ直ぐな瞳を見てハッとした。


『ただ、どんな理由があろうと、人々の命を軽視していい道理にはならない。友だちなら…友だちの過ちは見過ごしちゃダメだ。自来也、私にも出来る事があるなら何でも手伝うから、大蛇丸くんのこと、諦めないで』


センリは何十年も前に自分が封印してしまった友を思い浮かべ、自来也に優しく語りかけた。
自来也も、かつて幼い頃センリに聞かされた言葉を思い浮かべていた。


「本当にセンリ様は昔から変わりませんなあ」


懐かしく、そしてあたたかい光が、自来也の胸の中にふわりと落ちてきていた。しっかりしなくてはならないと、自身の心に言い聞かせる。


『自来也だって、すけべな事してるだけじゃなくて、ちゃんと努力して仲間に優しくできるってとこ、ずっと変わってないよ』


センリは無意識のうちに自来也の葛藤も感じ取っていた。適わないな、というふうに自来也は苦笑した。


「大蛇丸の事は…心配なさらんで下さい。センリ様が思う程ワシは出来た人間じゃあありませんが、自分の不始末くらいは自分で面倒を見ます。センリ様には、色々やる事がありますからな」


自来也はナルトの出生の事情を知っている数少ない忍の内の一人だった。


『ありがとうね、自来也』

「そうですなあ。礼は酌の一つでもしてくれたらそれでいいですから!」


優しく微笑むセンリに、自来也は冗談っぽく返した。


「あ、いや……しかしマダラ様からセンリ様が他の男と深く接触しないよう頼まれていますからのォ……これでは本末転倒ですな」

『ふふ、自来也なら別に怒らないよ』

「おっと、それはワシを男として見ていないという事ですかな?」

『自来也は男の子だって知ってるよ!』


自来也が自分に気を使って茶化している事は分かっていたので、センリは軽やかに笑った。


『でも……このところ色々あったから一度マダラは戻ってくるみたい。自来也はすぐに出ちゃうの?』


センリは、つい先日のマダラからの手紙を思い出した。立て続けに事件が起きていたので心配になり一度戻ってくるようだ。


「ワシも久しぶりにマダラ様と夜の街にでも繰り出したいのですが……火影からもよくよく頼まれていますからのう」


自来也は少し残念そうに肩を竦めたが、仕方の無い事だとセンリは納得した。


『そっか。それだとやっぱりマダラが寂しがるね。じゃあ、代わりに私が夜の街で一緒に楽しんでくるから!自来也のオススメの可愛いお嬢さんがいるお店で』

「センリ様、くれぐれも、ワシが教えたという事は内密にお願いします……」

『えっ、分かった。じゃあ……ヒルゼンのオススメってことにしとくよ!』

「それはナイスアイデアですな!是非ともそうしておいて下さい!」



自来也は、センリが自分を元気付けようとしてくれていると理解していた。それは今までもそうだったし、大人になった今でも同じだった。その、自分を思うセンリの気持ちを無下にはしたくなくて、自来也は一人心を奮い立たせた。

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