木ノ葉隠れ確立期、発展期編
-第3次忍界大戦-
『よし……これで大丈夫だよ』
出血を止め、それから傷口を塞ぐまで少女も村人も声を発しなかった。
『怖がらせてごめんね。傷はもう治したから……今は気を失ってるだけ。あなたのお父さんはもう大丈夫だよ』
センリが穏やかに言うと、少女の手が小刀から離れ、次の瞬間瞳からボロボロと涙がこぼれ落ちた。
「と、父さん……!」
少女が眠っている父親に縋り付くのを見ながらセンリは手に突き刺さった小刀を引き抜き、素早く治療した。
『傷は治ってるけど、三日は安静にしていた方がいいよ。内臓傷ついてたから、食事は白湯から慣らしてね』
センリを見上げる少女の瞳は涙に濡れていたが、それより驚きと賞賛に満ちていた。村人達も顔を見合わせて喜んでいる。
「アンタ……忍…じゃ、ないんですか?」
先程とは打って代わり、静かな声で少女がセンリに問いかけた。
センリは一瞬ポカンとした後、いつものように微笑んだ。
『忍、だよ。木ノ葉隠れの』
少女は父親の顔を見、そしてもう一度未だに謎だらけ、という表情でセンリを見つめた。
「父さんは……さっき襲ってきた忍にやられたん、です」
恐らくはこちらが少女の本来の性格なのだろう。昂った感情がおさまり、その声は丁寧で、静かだった。
「岩隠れだ。オレたちは何にもしてねえのに、あっちから……」
村人の一人が言った。
「そうだ。オレ達が一生懸命育てた薬草をめちゃくちゃにしやがったから、村長が「やめろ」って言っただけだ!そしたら……村長を……!」
今度は村人の子どもが続けた。恐らくは少女の父親の事だろうとセンリは理解した。
『そうだったんだ……』
少女はギュッと唇を噛み締め、父親を抱きしめた。センリは怪我をしていない方の手で、少女の頭を撫でた。
『あなたのお父さんはとても立派な人だね。目が覚めたら褒めてあげて』
少女はまたセンリを見つめた。
「あの……あの、ごめんなさい。手、大丈夫……?」
少女は今度は心配そうにセンリの手を見つめた。傷は塞いだが、流れ出ていた血はそのままだ。センリは手を振ってにっこりした。
『問題ないよ!』
「忍でも……あなたみたいな人がいるなんて、思いませんでした…。戦争が始まってからは特に、乱暴な人ばかりでしたから……父を助けてくれて、本当にありがとうございます」
少女は深々と頭を下げたがセンリはそれを制した。
『乱暴する忍がいるの?』
「はい……ここは岩隠れから木ノ葉隠れに向かうルートの一つにもなっていますから……」
少女が暗い顔をしながら言った。
「あいつら、オレ達みたいに忍じゃねー人間はお構い無しなんだ!こっちが勝てないのを分かってて攻撃してきやがる!」
先程の子どもが怒っていた。
「うちらは薬草売って商売してるんだが、それを泥棒された事だってある」
汚れたエプロンをかけた中年の女性が腕組みしながら言った。センリは眉をしかめた。
『それは……本当にごめんね。でもこのままじゃいけないよね……』
怒り、悲しんでいる様子の村人を見てセンリは立ち上がった。
『この村にお医者さまはいる?』
村人全員が首を横に振った。
辺りを見る限り、本当に小さな集落のようだった。
『なら、私が怪我や病気の応急手当の仕方を教えるよ』
「ほ、本当ですか?」
今度は少女の目が期待で見開かれ、センリは深く頷いた。
『それからそこにある薬草の畑は出来るなら向こう側に移した方がいいね。この辺りはだいたいいつも南風だから……道より畑を風下にした方が泥棒にも気づかれにくいよ』
村人はなるほど、と言いながら次々に頷いた。
「それなら戦い方も教えて下さい」
少女が言った。真剣な目だった。
『戦い方より、攻撃された時の回避術を覚えた方がずっといいよ。それから護身術辺り。無闇に攻撃するより、避けられるできる怪我は絶対に避けた方がいい』
「……」
少女は父親の肩を掴む手にギュッと力を込めた。
「確かに、あなたの言う通りです。それなら……私たちにそれを教えてくれませんか?」
「オレもオレも!」
「ワシとて若い者に任せてはおけん。是非ご教示願いたい」
少女に続いて次々に村人が声を上げた。センリは快く頷き、それから二ヶ月程かけてそれらを教え込んだ。
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