- ナノ -


木ノ葉隠れ確立期、発展期編

-ミトの最期、忘れられた記憶-



「……少し昔、ある小さな村に、二人の男女がいた」

カルマは思い耽るように、遠い昔を思い出すように、静かに語り始める。


「二人とも互いに驚く程に秀麗で美しく、そして特殊な体質だった。

女には異常なまでの自己治癒力があり、男には手の平で触れた者の病や怪我を跡形もなく消滅させる能力だ。

二人ともその能力故に村人から重宝されたが、それは長く続かなかった。二人の力を求め、村同士が争い始めた。平和を好んでいた二人は耐えられなくなり、共にその地から逃げ出した……」


唐突な話の展開にマダラは眉をひそめたが、淡々と語るカルマの静かな声を遮ることはしなかった。


「自分達の力の事を知らない新天地に二人は住み着いた。素性を隠し、人間の少ない小さな町を選び、細々と暮らした。二人が愛し合い、そして子を成すまでには時間はかからなかった。

生まれた子は、それはそれは愛らしく、美しい赤子だった。夫婦となった男女は心から喜び、そして幸せを手にしたのだと実感した。自分達の能力を隠したまま幸せな時間を過ごし、最初に生まれた子は愛情に包まれて育った。そしてその子が十二を迎えた時、二人の間には次の赤子も生まれていた。幸せだった……。


しかし……二人目の赤子が生まれてすぐに、僅かな間の幸福な生活は崩れ去った」


カルマの瞳が細められ、その瞳の中に僅かな憤りの光が見えた。


「二人の特異な体質が町の者に露見してしまった。そして町中の人間から化け物だと罵られ、生まれた子どもたちも化け物の子どもだと言われ……手の付けられない暴徒と化した町人は、子どもたちの命を狙った。

親となった二人は自分達の命を懸けて、子どもたちを逃がした。出来うる限り遠くへ……自分達の事を知らない遠方の地へ逃げろと言い残し、そして二人は我を失った町人らに…無残にも殺された。

十二になったばかりの上の子は、産まれたばかりの赤子を抱き抱え泣きながらひたすら走り、そして両親の言いつけ通り、遥か遠くの地で下の子どもと暮らすことに決めた……」


「姉と弟……たった二人だけの家族だった。

姉は強い精神力と優しさの持ち主で、底抜けに明るく、そして何よりも弟を愛し、一生懸命育てていた。そして弟も姉の愛情に応えるようにすくすくと育った。

姉は両親の体質や本当の死因を弟には話さずにいた。余計な心配をさせたくなかったからだ。しかし……世の中は不条理な事ばかりだった……。優しく、思いやりのある者ばかりが何故か不幸な目に合う……」


カルマはまた一度言葉を止め、今度は地面をじっと見つめた。


「……姉は両親の体質を受け継いでいた」


マダラはハッとして目を開く。


「弟の方には全くその気はなかったが、姉だけがどちらの体質も受け継いでいたのだ。美しい外見、それから治癒能力……。目を引く程麗しい外見に惹かれた者共が、姉の体質を嗅ぎつけてしまったのだ。そしてそれは何も知らなかった弟の耳にも入り、それから仲の良かった村の住人達が村長を筆頭に、姉を狙い実験台にしようとしていることも知った。

そして弟は……殺られる前に手を打とうと考えた…」


「……村人たちを殺そうとしたのか」

マダラの問いかけに数秒経ってからカルマは頷いた。


「それを知った姉は……弟を何としてでも止めなければならぬと思った。弟を殺人犯にはしたくない……そしてその為にはどうすればよいのか悟った」

それからしばらくカルマは口を開かなかった。結界の中には心地よい風は通らず、まるで隔離された世界のようだった。


「姉は自ら命を絶った」

カルマの静かな声に、あきらかな哀しみが入り交じって聞こえた。


「異質なものは災いを引き起こす……。姉弟のいた世界で、そういった体質は非常に稀だった。いや……他の誰にもないものだった。

姉は笑って死んでいった。苦痛の中、弟に「あなたのせいではない」、「自分は幸せだった」と何度も繰り返した。そして短い生涯に幕を閉じた」


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