木ノ葉隠れ確立期、発展期編
-ミトの最期、忘れられた記憶-
ミトが亡くなった事を知っているクシナは当然悲しんではいたが、ミトが伝えた事を胸に、しっかりと前を向いて歩いていこうともしていた。
クシナの体質はかなりミトに似ていて、それ程の注意を払わずともクラマをほぼ完璧に封印する事が出来ていた。
しかしそんなクシナでも尾獣の力をコントロールするのは難しい。封印してすぐに一度、尾獣化しかけた事があったが、側についていたセンリがすぐに場を収めた。しばらくは暗部の見守りなどが付く事になるが、センリが作った札を持ち歩いていればほぼ問題はない。こういった件に関しては確かに、木ノ葉隠れは心配の種という事にはならないだろう。
そして、ミトが最期を迎えて幾日か過ぎた時だった。
呪いの縛りが弱まった時にカルマが人間の姿で実体化し現れ、突然マダラと話がしたいと言い放った。数週間前にもカルマは実体化出来ていたので、今の時期は本当に術の縛りが弱まっているようだ。
『それなら今は第五演習場にいると思うよ。雷遁の練習したいって言ってたし……あそこは木が少なくて広いし、やりやすいからね。でも、突然どうしたの?』
センリは洗濯物を干しながら少年姿のカルマに問いかけた。美しい羽衣が太陽の光に反射してキラキラと光を放っていた。カルマの方からマダラと話したいなどというのは本当に珍しい事だった。
『なにか重要なこと?』
「いや……うちは一族についてどこまで知っているのか、少し聞きたいと思ってな」
相変わらず聡美な外見に似合わない低い声でカルマが言った。
『インドラの事とか話すの?』
「いや、それはまだ話さずとも良いだろう。写輪眼の瞳術について、少し聞きたくてな」
包帯の布を器用に洗濯竿に巻き付けながら、センリが頷いた。
『なるほどね!演習場は里のあっちの方なんだけど……分かるよね?』
センリは木々の向こうを指さした。詳しく話さずともカルマなら場所が分かるだろう。
「問題ない。それでは少し行ってこよう」
カルマはその場で一回転した。次の瞬間にカルマの姿は無く、その場にはキラキラと粉雪の様なものが舞っていた。
――――――――――――――
第五演習場は木が少なく、術の腕試しをするには恰好の演習場だった。
「……随分珍しい事もあるものだ。お前の方から話し合いに来るとはな、不死鳥」
マダラは突き出た大きな岩に座り、目の前に突然現れたカルマに向かって驚く様子もなく言った。
「少し……御主に話しておいた方が良いかと思う事があってな」
マダラはカルマの考えを探るように金色の瞳を見たが、カルマの感情は分からない。しかしその言葉に、頭によぎったものがあった。
「…センリの事か?」
マダラの予想は当たっていたらしく、カルマは嫌にゆったりと頷いた。カルマが話したい内容は、先程センリに言った、写輪眼の事とは全くもって別の事だった。
カルマは少し視線をずらし、地面から伸びた雑草を見つめた。
「御主らが夫婦となってから随分時が過ぎた。その間、うちはマダラ、御主は道を踏み外す事無く、いつでもセンリの心に寄り添ってきた」
マダラは何も言わずにじっとカルマを見ていた。金色の瞳は感情を現さない。
「御主からはセンリに対する無条件の愛情が途切れる事無く感じられる。そして我は……その思いが、これから先も保たれていくのだろうと、確信するようにもなった」
カルマは一度言葉を切り、右の手の平を空にかざし、円を書くように動かす。マダラはカルマが結界を張ったのだとすぐに気付いた。何十年か前、木ノ葉隠れの里が出来た時に火影邸の一室でカルマと対峙した時と全く同じだった。
「それで、センリの過去について話す気になった、と?」
完全に結界が張られるのを待ってからマダラが問いかけ、そしてカルマが頷いた。
「センリの以前の世界……前世、とでも言うべきか……そこで起きた事について、正直なところ話さずとも良いことではある……。しかし、今となっては御主はあの子にとって他の誰よりも大切な人間となった。あの子の為に話しておいた方が良い、というより、我自身が御主に話したいと、思い定めた」
未だにマダラはカルマの腹を探るように鋭く見つめていたが、どうやらその思いは誤魔化しではないと結論付けた。
カルマはふと空を見上げ、一息ついてから再度話し始めた。
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