木ノ葉隠れ確立期、発展期編
-次の未来に-
ヒルゼンにもその説を伝え、事件から二ヶ月経つと徐々に皆の気持ちも落ち着きを取り戻した。
センリもこれまで通りにナルトの元に行く余裕もでき、イタチもサスケも今までと同じように鍛錬に励んでいた。
「センリ、修業の手合わせをしてくれないか?」
センリが夕方洗濯物を取り込んでいると庭からサスケがひょっこりと顔を出した。
『今から?』
「ああ」
本当にイタチの口調に似てきたサスケと壁掛け時計とを見比べセンリは申し訳なさげに苦笑いを浮かべた。
三日後にはマダラがまた里を発ってしまう為、この後少しヒルゼンと三人で会う約束があった。
『もう少ししたら火影の所に行かないといけないんだ』
「…そうか」
『また今度にしよう。ごめんね』
「いや」
そうは言っていたが、サスケは少し落胆した様子で肩を落とす。
『最近アカデミー終わってからずっと修業してるんでしょ?疲れてない?大丈夫?』
あの事件以来、アカデミーに通っている以外の殆どの時間を修業に費やしているとイタチから話は聞いていた。サスケの体が少し心配だった。
「大丈夫。早く強くならなきゃいけないんだ。泣き言は言ってられない」
その言葉にセンリはイタチを思い出した。あの時のイタチと今のサスケはよく似ていた。その表情と、思いとが。
『…サスケはどうして強くなりたいの?』
「そんなの決まってる。一族を殺したヤツを見つけて……絶対にオレが殺してやる。その為には早く強くならなきゃいけない。兄さんを越えるくらい強く…――」
しかし強くなりたいというその理由はイタチとサスケとでは全く違うものだった。
平和な世界を作りたいというイタチの思想とサスケの考えとは真逆の位置にあるような気がして、センリは僅かに不安を覚えた。
『そっか…』
まだ幼いサスケの考えとしては当然の事だろうとも思って、センリは出かかった言葉を止めた。“憎しみだけでは強くはなれない”とか、“うちは一族の思いは、里を守ることだ”とか、様々な感情がセンリの中に走ったのは事実だった。
しかし、今はまだそれらをサスケに教えるべきではないのではないか、とも思っていた。
『サスケ』
センリに背を向けて歩き出そうとしていたサスケは歩みを止め、センリを振り返った。
「何だよ」
その口調は年々反抗的なものになっている気はしていたが、名前を呼べばいつでも振り向いてくれるところは変わらずだ。子どもはいつだって成長していくことは分かっている。しかし、自分の思いは変わらないのだという事もまた確かだ。
センリはいつものように、穏やかな笑みを浮かべた。
『今週末、イタチと一緒に夕飯食べない?トマトパーティにしよう!』
いつもの調子のセンリを見て、サスケは呆れたように眉をひそめた。イタチに額を小突かれた後の表情そのものだ。
「またわけの分からない事言ってるな……」
『たくさん買ってくるから!私、トマトを丸ごとスープにするやつ、やってみたいんだよね…。トマトの旨味たっぷりでさ、すんごくとろっとろでやわらかーくて…絶〜っ対美味しいよ!』
センリが瞳をきらきらとさせながら言うと、サスケはじっとその様子を見ながら何を言うべきか考えていた。唾を飲み込みそうになるほど魅力的な料理だ。
「…………分かったよ。兄さんが任務かどうかは、知らないからな」
結局サスケは好物の誘惑には勝てず、口をへの字に曲げたままボソリと呟いた。センリは嬉しそうににっこりした。
『大丈夫、大丈夫!私が任務やらせないように言っておくから!』
「本当かよ?」
『ホント!だからその日は、お腹空かせて帰ってきてね』
「はいはい」
そういうとサスケはヒラヒラと手を振り、今度こそその場を後にした。親しい人間に対してぶっきらぼうに接するようになるのも、子どもの確かな成長のうちのひとつだ。
サスケの目標が暗闇に落ちていかない事を、祈っていた。
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