- ナノ -


木ノ葉隠れ確立期、発展期編

-次の未来に-



事件から一ヶ月経っても犯人の情報は少しも得られず、ヒルゼンもとうとう大掛かりな暗部の捜索を打ち切った。
この捜査には何人もの忍達が関わりたいと申し出て、特にうちはや千手と繋がりのあった人間達は、何がなんでも犯人を見つけてやるという意志を持った者が何人かいた。

最初こそは、あのうちは一族を全滅させるような犯人が近くにいるのではないかと思っていた人々だったが、火影であるヒルゼンは大々的に「犯人は里の中の人間ではない」と発言していたので、一ヶ月経つ頃には既に里内の様子はほぼ事件前と同様に戻っていた。



『(シスイ……助けられなくて、本当にごめんね)』


センリはシスイの遺体が見つかった森の中で鎮魂の祈りを捧げていた。木ノ葉隠れからはそう遠くはない、少し開けた森の一角だ。遺体の状態的にはどうやら一族の中でシスイが一番初めに殺されたようだった。


「あの瞬身のシスイがやられるなんて…一体敵はどのくらい強い忍だったのでしょう?」


黙祷を捧げるセンリの背後から、イタチが静かに問いかけた。センリは瞑っていた目を開けて、いつものように白蘭を木の根元にそっと置いた。


『ヒルゼンの言うように、シスイを呆気なく倒せる人間は“里の中”にはいない。今分かるのは、それだけだね』

センリは少し困ったように眉を下げ、寂しげに首を横に振った。


『イタチも、とても辛いよね。シスイととっても仲が良かったもんね…』

センリはイタチを労わるようにそっと背中に手のひらを当てた。イタチにとっては、親しい友人を亡くしたのは二度目だ。それにまだ十三。表に出さなかったとしても、悲しくないわけがないだろうとセンリは心が痛んだ。


「確かに…オレの親友はもう、この世にはいません。でも…シスイの思いは死んでいない」


センリはイタチの言葉に少し驚き、顔をじっと見上げた。イタチは微笑んでいた。

「センリさんが教えてくれた事ですよ」


センリはイタチの目を見つめるが、その瞳に曇りはなく、無理に悲しみを推し殺そうとしているわけではないことも明らかだった。


「“大切なものを守って、心を繋いでいく事が、忍だ”と…。そう、センリさんが教えてくれました。オレも、忍はそうあるべきだと思います。だから……今オレがすべき事は、後悔ではない。シスイの思いを受け取って、繋ぐ事なんです」


イタチの声はいつものように穏やかだが、同時に強い意志を含んでいた。センリはイタチのその心に、素直に感嘆していた。これ以上の心配の言葉は、要らないと思った。


『イタチの言う通りだね。そうだよね。シスイの思いは消えていない。シスイは木ノ葉隠れの里が大好きだったもの。必ず私たちが守っていこう』


犯人を憎く思い、見つけ出そうと躍起になるのではなく、両親も親友をも殺されても尚、未来を見る事ができるイタチは本当に立派だった。センリは心からそう思った。


あの夜の事件は“うちは一族の悲劇”と呼ばれ、その一族達の死には里の誰もが鎮魂の祈りを捧げた。


里が創設されてから、うちは一族が里の為に尽くしてきた事は代々語られている。警務部隊員として、里の忍として常に木ノ葉を守る事に徹底していたうちは一族の死は、他の者にも深い悲しみを与えた。


百年近くうちは一族と深い関わりを持ち生きてきたセンリにとって、今回の悲しみから抜け出すには僅かに時間を要した。自分を一族に置いてくれた恩、信じて慕ってくれていた者の顔を思い出すと悔しくてたまらなかった。

勿論、サスケやイタチやナルトにはその悲しみは絶対見せないようにしていたが、ナルトにいたってはそもそもセンリとうちはとの関係を知らなかった。その事はセンリにとってはむしろ救いだった。血が繋がらないとはいえ、今まで育ててきた子どもに涙を見せたくはなかったからだ。


『(サスケやイタチ…オビトの方がつらいに決まってる。それに、マダラだって――)』


元々精神的にも安定し達観していたイタチや、すでに成人していたオビトとは違い、サスケはまだ子どもだ。そんなサスケは、事件以来極端に笑顔が減ってしまったが、それも仕方の無い事だった。アカデミーに休まずに通っているだけ立派だ。ただ、両親と暮らしていたあの家には帰りたくないといい、イタチと共に里内の別の場所の平屋に二人で住んでいた。


自分が里を出ている間に一族が殺された事を知ったオビトも初めは混乱していたが、マダラとの修業の甲斐なのかすぐに精神的には安定し、事件の真相を解明しようとしていた。



マダラはセンリの様子が心配だった事もあり、少しの間里に留まっていた。
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