木ノ葉隠れ確立期、発展期編
-うちは一族抹殺-
オレは……弱い。
忍としての強さでは無い。自分には人間としての強さが無いのだと、オレはこの時理解した。
…――いや、違う。忍としての強さも、全然足りていないんだ。
なぜなら、家族を守れなかった。オレが見殺しにしたようなものだ。守れたはずなのに。オレが、守らなくてはいけなかったのに。
―――シスイまでも殺せるような相手に?オレが勝てたってのか?
親友だって守れていないじゃないか。
一体、シスイは死ぬ間際に、何を思ったのだろうか?オレを、恨んだだろうか…。
目の奥が熱かった。それが悲しみの塊だとは分かっていたが、瞳からこぼれ落ちることは無かった。自分の無力さの方が、胸を締め付けていたからだ。
センリさんの涙が、直接心の中に落ちてきているようだった。オレの頭の中には、センリさんの苦痛の表情と涙が焼き付いて離れなかった。突然、自分の弱さが身に染みて、脈拍が速くなった。
センリさんの涙を見ても、足を踏み出す事が出来なかった。悲しみにも気が付かなかった。
あんなにうちは一族を愛していた人が、悲しんでいないわけがなかったのに。あんなに優しい人が、大事に思っている人間達を殺されて、傷付いていないわけがないのに。
何度もオレの心を守ろうとしてくれたのに、やっぱり、オレは結局何も出来ていない。忍の強さも足りず、大切な人の精神も守れない。
幾度となくシスイと約束した。「この里を、うちはを、共に守ろう」と。
――そうだ。約束したんだ。
何度だって決意してきた事だ。
シスイはいつだってこの里の未来を考えていた。一番に尊敬する忍で、オレの、親友だ。
きっと、後悔したはずだ。シスイが叶えたかった未来は、もう見れないのだ。それなら、親友が望んだ未来は……――――
「頼めるのは、親友のお前だけだ」
オレが、必ずその未来を目にする。絶対に里を守る。今度は絶対に、守ってみせる。残された弟の命も、親友の願いも…絶対に途絶えさせたりはしない。オレが、この命をかけて、守る。
二人に気づかれないように、オレはまた唇を噛み締めていた。血の味がした。これは、オレの決意の味だ。
「(守りたい……)」
この時ほど強く思ったことはなかった。そうだ、オレは、何としてでも強くならなきゃいけない。絶対に。
「(強くなりたい…!)」
オレの心を支配していたのは、その感情だけだった。
家族を失いたくない。友を失いたくない。未来を、失いたくない。
あんな顔をさせたくない。涙を流させたくない。もうこれ以上、大切な人を失わせたくない。こうして陰で、悲しませたくない。
弟を守りたい。里を守りたい。未来を守りたい。大切な人を、守りたい。
そのための、力がほしい。
色々な悔しさが頭の中で入り混じって占領し、オレは手のひらに食い込む自分の爪にさえ気付かなかった。
強くなりたいと、この時程思った事はない。両親が目の前で死に、それから今まで風のように時間が過ぎていた。サスケの安全だけを考えていた。
「(オレは……)」
守りたい。
その気持ちがオレの心の中全てを埋めて、そしてそれが弾けた。
「(!?)」
何かが燃えている。両目の奥、頭の中が燃えるように熱い。
オレは手のひらを瞼に当てる。
泣いていた。
「(いや………違う)」
涙が流れる時の眼の熱さではない。尋常ではない力が漲り、それが全て両目に集中している。写輪眼を開眼した時よりももっと熱く、痛みすら感じる。
「(万華鏡、写輪眼……)」
これがその写輪眼なのだとオレはすぐに理解した。これはシスイと、父さんと、同じ目だ。写輪眼を上回る力を出せる…。とても強い瞳力だ。
目元を袖で拭う。
「(泣いてなど、いられない)」
新しい力が宿った時、今までのオレの心には、新たな決意が上書きされた。
大切なものを、守りたい。
生き残った弟、自分を認めてくれていた人。
その存在を守りたいという強烈な思いがオレの瞳に新たな力を宿したのだ。
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