木ノ葉隠れ確立期、発展期編
-うちは一族抹殺-
センリは自宅近くの川辺に一人佇んでいた。マダラが小さな頃から共に通い、初めて思いが重なったあの川辺だ。
満月から幾らか欠けてきた月がゆらゆらと水面に移り揺れていた。
『…っ』
その姿を見つけて咄嗟にイタチは足を止めた。
センリは泣いていた。
月の光に照らされて、センリの頬が涙で光って輝いて、イタチの足は林の中から一歩も踏み出せなくなった。
『うっ……』
センリが嗚咽を洩らす声がイタチの耳に聞こえてくる。
センリは口元に手を当て、必死にそれを堪えているようだったが、大粒の涙が両目から溢れ出していた。
イタチはどうしようもなく悔しさを感じた。そこから動けない自分にも、センリの気持ちに気付かなかった事にも。
センリがうちは一族の事を大切にしている事は分かっていた。自分の両親はセンリの友でもあった。哀しくないはずが無い。これまで涙を見せなかったのは自分達兄弟を安心させる為なのだとイタチはこの時になって初めて理解した。
「……!」
イタチは新たな気配を感じて身を近くの木に寄せた。それとほぼ同時にセンリの側に誰かが現れた。イタチは服の中でクナイを握り締めたが、その人物を見てセンリの表情が変わった。
『マ、ダラ……』
掠れた声だったがイタチの耳には確かにそう聞こえてきた。
「遅くなってすまない。先にヒルゼンのところで話を聞いてきた」
センリは驚いたようにマダラを見上げていたが、その声を聞いて、瞳をふと歪めたかと思うと駆け寄って抱き着いた。マダラは驚く様子もなく、沈痛な表情を浮かべたまま、センリの体を抱き締めた。多くを交わさなくとも、センリの感情の全てが分かっていた。
『ごめ、…ごめんなさいっ……!』
聞いているこちらが辛くなる程悲痛な声で、センリは言い、マダラの服を力いっぱい握り締めた。
『みんながっ……うちはの、みんなが…!』
イタチのところからはマダラの表情は見えなかったが、その手がセンリの頭に回り、そっと撫でた。優しい、優しい、触り方だった。
『わたし、…何もっ、何もできなくて…!…ごめんなさい………ごめんなさい…』
ごめんなさい、と何度も繰り返すセンリの声を聞いて、イタチは強く唇を噛み締めた。血が出るのではないかと思った。
「お前のせいではない……オビトも無事だ。大丈夫だ…――」
『でも…――!うちはを……うちはを守るって…――みんなと…イズナとも約束、したのに……約束、したのに…!また―――』
今まで聞いた事がないセンリの声だった。苦しくてたまらないという表情も、真珠のようにこぼれ落ちていく涙も、イタチが初めて見るものだった。センリの弱さを、初めて見た瞬間だった。
「お前のせいではない。お前が自分自身を責める必要はどこにも無い。サスケもイタチも、お前と共にいたお陰で生きているのだろう。俺も生きている。大丈夫だ……」
そこからセンリの嗚咽しか聞こえなくなり、マダラがひたすらその体を抱き締めていた。
イタチは二人に気付かれないように、必死で気配を殺した。
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