- ナノ -


木ノ葉隠れ確立期、発展期編

-子ども達との日常-



ナルトのアカデミー入学試験まで数ヶ月に迫った冬、センリはヒルゼンに呼び出されていつものように火影室の扉を開けていた。パイプをふかしていたヒルゼンの前にはダンゾウの姿があり、センリの姿を一度だけ振り返る。


『あれ、どうしたのダンゾウくん』


ダンゾウがこの部屋にいる事自体は珍しくは無いがセンリの前に姿を現したのは一年ぶりくらいだった。センリはダンゾウの隣に移動して顔を覗き込んだが包帯で隠された表情からは何の感情も読み取れなかった。


「すみませんな、センリ様。少し相談がありまして」

ヒルゼンはパイプを口から外して机の上に置く。この煙が嫌いなダンゾウはフンと鼻を鳴らした。


「うちはイタチを暗部に編入させたい」

『え?』


唐突なダンゾウの言葉に驚いたが、何よりもその内容がセンリの表情を曇らせた。


『暗部……どうして?』


イタチはこの間中忍になったばかりだ。十一歳で中忍という事自体今では早い昇格だというのにそれが何で突然暗部なんかに。
眉をひそめたセンリの顔をダンゾウは一瞥して杖を持ち直した。


「うちはイタチは忍として卓越した類稀なる才能を持っている事はあなたもご存知でしょう。あの忍は中忍などという括りに居ては実力を発揮出来ない。火影直轄の暗部に入れるべき存在です。今の現状はあの子にとっても納得したものではないでしょう」


ダンゾウはつらつらと意見を述べ、左目だけでセンリを横目に見た。

確かにイタチは早く忍として地位を確立したいと更に上を目指して日々鍛錬している。実力も中忍以上あるかもしれない。しかしいくら何でも早すぎる。いくら忍としての才があっても心がそれに追い付いていないと意味が無い。


『……私は反対する』


珍しく真剣な顔で感情を抑えた声音にダンゾウは忌々しげにセンリを見たが、ヒルゼンはその返事をわかっていたというふうに小さく首を縦に動かした。


「何故です。あの子は百年に一度出るかどうかという逸材。うちはフガクもイタチを警務部隊に入れ、自分の跡を継がせる気はなくこのまま里の忍として精進し任務について欲しいと望んでおる。里にとって有益な駒は無闇に遊ばせておくべきではありません」


中忍や上忍にもうちはの忍はいたが、九尾襲来の一件でうちはの暗部はいなくなり、現状の暗部には一人も在籍していなかった。うちはの者は忍として有能な者が多い。特にダンゾウは写輪眼を高く評価している。暗部にうちはの精鋭が一人いればそれだけで里にとっても有益だ。その事を考えてのダンゾウの発言なのかは分からなかったがセンリは一切賛成の意を見せなかった。


『イタチは遊んでるわけじゃない。きちんと任務をこなしてるし、友だちと一緒に修業もしてる』

「それを遊んでいると言うのです」


ダンゾウはセンリの言葉に鋭く言い返す。しかしセンリもひるまなかった。


『忍としてはイタチは確かに優秀だよ。実力もあるし、冷静な判断力もある。でも、まだきちんと心が追い付いてない。忍としては十分だとしても人間としてはまだ子どもだよ。今は戦争中じゃない。ちゃんと段階を踏んでからの方がいい』

「そういう事じゃダンゾウ。ワシもイタチの暗部編入には些か納得出来ん」


畳み掛けるようにヒルゼンも続ける。
ダンゾウはヒルゼンとセンリとを交互に見つめて小さく唇を噛んだ。


「その代わりワシは暗部にははたけカカシを推薦する」


ヒルゼンがそう言うとダンゾウの目が変わる。


『カカシか…。上忍になって随分立つし、カカシなら暗部としてもやっていけるかもしれないね』

「はい。あやつの功績は他の上忍も認めていますし、写輪眼も使いこなせておるようです。暗部に入れる実力も十分。どうじゃ、ダンゾウ」


センリもヒルゼンもダンゾウをじっと見つめた。


「ふむ、一族の者では無いが片目の写輪眼…。一族外の写輪眼をうちはの者が認めておる事はどうかと思うが…少し気になるところではある」

「ならばはたけカカシを正式に暗部に引き入れることにしよう」


僅かではあったがダンゾウが納得した様子を見せたのでヒルゼンはそう決めて引き出しから何やら書類を取り出し、隅の方に判を押す。


こうしてカカシは上忍から暗部に配属になった。ダンゾウが何故そんなに写輪眼に固執しているのかヒルゼンには分からなかったが、確かにその力は里の為にも必要なものではある。それを分かっていたからこそセンリはイタチの暗部編入を止めたのだ。重要なものだからこそ慎重にならなければならない。忍としての才にばかり集中していては人間性を見極める事は出来ない。

センリはイタチに、まだ学んでほしいと思う事がたくさんあった。
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