- ナノ -


木ノ葉隠れ確立期、発展期編

-事件発生とオビトの弟子入り-



大名はその日のうちに火の国に戻り、やはり訪問は延期になった。

幻術を解かれたイタチの担当上忍と暗部達と共にすぐにヒルゼンに報告をしたセンリだったが、イタチからの事情聴取は後日にして欲しいと頼み込んだ。


里に戻る途中にセンリの背中で目を覚ましたイタチだったがまるで元気が無く、こちらが何か問い掛けても上の空だった。何かあった事は明らかだったが、まだ思考が追い付かず、恐怖が体を支配しているように思えた。
だがそれも当然の事のように思えた。



『あの子は大人びてるけれど、まだ八歳だ…。きっと今回の出来事はとてもショックだったと思う。この先トラウマにならないようにも、すぐに思い出させたりしない方がいいと思う。ただ、あの時何が起きたのか知ってるのはイタチだけだから…もし、何か聞けるようになれば、私から聞いてみるね』

「それがいいでしょうな…。イタチは聡明な子どもではありますが、それ故に感情を表に出さずにいる節もありますから…」


ヒルゼンもその意見に賛成し、一先ずイタチを自宅に戻す事にした。またダンゾウやコハルなどには小言を言われそうだとは思ったが、ヒルゼン自身センリの言葉の方を優先したかった。


しかし、火影室から出て待機していたイタチに帰宅を促しても、自宅に帰ろうとはせずに僅かに眉を下げセンリの顔を見つめるばかりだった。

センリは心配そうにイタチの顔を覗き込み、いつものように優しく頭を撫でる。ふ、とイタチは我に返り、センリの目をじっと見返した。


「センリ様と一緒にいては、いけませんか?」


小さな声で問い掛けてくるイタチを少し不思議そうに見返すセンリだったが、しばらく考えて、静かに頷いた。


一度イタチと共に警務部隊本部にいたフガクの所へ行き、イタチを少し待たせて事情を説明した。


『…――だからイタチ、今日の夜はうちに泊まっていってもいいかな?フガクやミコトに心配かけたくないんだと思うんだけど……』

「忍として仲間の死を目の当たりにする事は、これからも避けては通れません。ご迷惑をおかけしますが、イタチをよろしくお願いします」

『迷惑なんかじゃないよ。私もイタチに出来るだけ寄り添ってあげたいから…。詳しい事は後でヒルゼンの方からフガクにも話をしに来ると思う』



「あまり甘やかさないで下さい」という言葉を、フガクは呑み込んだ。幼い頃、今の息子と同じように人の死に苦悩した時に、センリがそっと背中を摩ってくれた事で、安心した事を思い出したからだ。

フガクはそれ以上深く事情を聞こうとはせずに納得し、小さく頷く。

センリは外で待っていたイタチと手を繋ぎ、共に誰もいないセンリの自宅へと向かった。イタチはいつもなら恥ずかしがって遠慮する所だったが、この時ばかりはセンリのあたたかな手を、そっと握り返した。



自宅に帰ってから夕飯と風呂を促したが、イタチは言葉少なく「夕飯はいりません」と言って風呂にだけ入った。

それからすぐにセンリも風呂を済ませてイタチを探すと、イタチは縁側に座って夜の空をぼーっと見上げていた。センリが隣に腰掛けるとイタチはピクッと体を震わせた。


『イタチ、寒くない?』

「…ありがとうございます」


センリはイタチの肩に羽織をかけて、同じように空を見上げた。
それ程寒い時期ではなかったが、夜風が肌を掠めてセンリは少し鳥肌が立った。しばらく二人はそうして空を見上げていたが、先に口を開いたのはイタチだった。


「…………仲間が、死にました」


ささやき声のように小さな声に気付いてセンリがイタチを見ると、その肩が僅かに震えていた。


「死んだんです、目の前で………オレは、何も出来なかったんです…男が突然………全然知らない人だった………そいつがテンマを――オレは、オレは、仲間が殺されるのを、ただ見ていた………なにも、出来なかったんです…!」


今にも泣き出しそうな、震えた声だった。
いくら忍の才があるとはいえ、イタチはまだ八歳の子どもだ。目の前で殺されたのが見ず知らずの人間ならともかく、それがイタチが心を開き始めた仲間だという事実が、幼い心にどんなに怖く恐ろしい傷を残したのか、容易く想像はつく。

センリはイタチの身体を抱き寄せた。まだ自分よりもいくらも小さな身体だ。センリは少し、マダラの事を思い出した。初めて出会った頃の、小さな身体でどうにか溢れ出る感情を押さえつけようと必死な子どもの姿だ。
イタチの、行き場のない苦しみを、少しでも受け取ってやりたかった。


『イタチのせいじゃないよ』


センリの柔らかな胸がイタチの頬に当たり、あたたかい温もりに包まれた。センリの穏やかな声が、優しい手の平が、どうしようもなくイタチを安心させた。


「っ」


その温度を感じた瞬間イタチの目頭が熱くなり、視界が歪んだ。体の震えは止まり、代わりに涙が溢れた。鼻の奥がツンと痛み、心の奥底から漏れ出す感情を抑える事が出来ず、溢れ出る涙も、どうにも出来なかった。


「もっと……もっと強くなりたい…!オレの力が足りないから、仲間が死んだんだ――!」


無力感と失望とが代わる代わるイタチを襲い、どうしたら良いか分からなくて、センリの服をぎゅっと掴んだ。


『イタチ……』


力むイタチの体に気付いて、センリはその顔を覗き込む。


『…!』


至近距離でイタチの顔を覗いたセンリだったが、ある異変に気付いた。

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