- ナノ -


「いい子だね、扉間」


限りなく小さくささやいたオレの言葉を聞いて〇〇は満足したようににっこりと笑い、また上下の手の動きを再開した。先ほどまで感じていた快感がすぐに戻ってきて、それに加えて〇〇が首筋に舌を這わせるものだから無意識に吐息混じりの声が漏れてしまう。


「扉間、気持ちいい?」

顔のすぐ下で聞こえる〇〇の問いかけに小さく頷く。しかし何が気に入らなかったのか〇〇はオレの首筋に歯を立て、噛み付いてきた。鋭い痛みが走り、咄嗟に〇〇に手を伸ばそうとしたが、出来なかった。


「痛っ…」

「気持ち、いい?」

「………気持ち……いい」


屈辱を感じながらも〇〇の欲しがる言葉を返したというのにまだ〇〇は納得していなかった。


「気持ちいいなら、鳴いて」

「っ…」


噛んだ場所に舌を這わせながら〇〇がささやく。その間も手の動きは止めない。拘束され、火影邸の一室で、本来なら夜の寝所で行うような事を強要され、それなのにオレは更なる快感を求めていた。その為にすべき事は、


「…にゃあ」

「賢い子猫ちゃんだね。気持ちよかったらそうやって鳴かないと」


これは果たして合理的判断なのか。ふと疑問がよぎったが、〇〇から与えられる快感にただ体が、それを欲しがっていた。〇〇が亀頭部分を手のひらで捏ねるようにしてからまた上下に擦る。先走りが〇〇の手のひらに絡まり、にちゃ、と音を立てた。


「もうこんなに溢れさせて……随分淫らな子猫ちゃんだね。発情期かな?」

「く、う……に、にゃあ…っ」

「うんうん、そっか。気持ちいいのか。いい子だね…」


こんな事をして何が面白いのかとも思ったが、〇〇を満足させるにはどうしたら良いのかくらいは分かる。それに従ってしまう自分に嫌気がさしたが、仕事中にこんな事をしていまっている背徳感さえも快楽へと変換されるくらいには、オレの頭の中は〇〇でいっぱいだった。

〇〇はオレの頬を撫で、耳孔に舌を差し込んだ。優しく、擽るように舌が動くと、鼓膜に水音が直接響いてきて、体の芯がより疼く。


「扉間、こっちの耳、好きだもんね」

「あ、…ぁ……にゃ、あっ」


みっともない言葉を発しながら、心地良い快楽だけが身を包み、訳もなく目が潤む。二週間ぶりの〇〇の手が、気持ち良くて、手首の肉に食い込む縄の痛みさえも麻痺してきた。本当に、気持ちが良い。


「あ、あ、〇〇……っも、う」

「もう出したいの?」

「あっ、にゃあ、…っ…!」

「分かったよ。たくさん出していいよ」


〇〇からの許可を聞いた途端に快楽の渦が早まり、いくつもの快感の波が押し寄せる。にちゃにちゃと〇〇の手に纏わりつくような音が嫌に大きく聞こえ、その音で誰かが来てしまうのではないかと思った。しかしそれを考えさせないというように〇〇が手の動きを早め、それと比例しておおきな快楽がすぐそこまで迫っていた。


「あっ、も、……出る…!」


足に変に力が入り全身が強ばったかと思うと瞬間、これまでにないくらいの快楽が全身を包み、それから屹立したものが脈打って白濁を吐き出した。いつもより明らかに多い量を吐き出す陰茎は暫くビクビクとした動きが止まらなかった。

〇〇はその殆どを器用に手のひらで受け止めていたが、それでも収まらない精液は小さな手のひらから滴り落ち、床を濡らしていた。


「すごい。いっぱい出たね、扉間」


僅かに耳鳴りがして〇〇の声が遠くから聞こえたような気がした。オレは何とか息を整え、ふらつく頭を回転させる。そうすると快感の波が徐々に去って行き、突然〇〇に怒りが込み上げてきた。


「貴様……こんな事をしてタダで済むと思うなよ」

「あらあら、そういう口の聞き方をする子猫にはきつーくお仕置きしちゃうよ?」

「ふざけ…−っ!」


〇〇を睨み付けていると、手の指を口に突っ込まれた。しかも精液を受け止めた方の手だ。


「っ…!」

「自分が出したものなんだから、ちゃんと綺麗にしないとね」


不味い、などという言葉では片付けられないほど、不味い。〇〇の指を噛みちぎらなかったのは、〇〇があの笑みでオレを見下ろしていたからだ。


「まさか、これだけで終わると思ってないよね?」


本当に、最悪だ。

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