- ナノ -


わたしは女神を見た事がある。

というよりほとんど毎日女神様の顔を拝んでいる。幸せ者である。

優しい性格もさることながら、女神様はそれはそれは可愛らしくて、いやもう可愛いなんて言葉では収まりきらないほどその容姿は輝いている。くりっとした大きな瞳いつもキラキラと光っていて、栗色の髪なんてツヤツヤで、もう何の文句も出ないくらい可愛いのだ。

艶やかな唇にわたしは食べてしまいたくなる欲求を毎日密かに殺している。でも清い女神様にこの欲望を無理矢理突き付けることなんてわたしはしない。ついでにどこかのバカのように写真にキスなんてしない。いつもきちんと許可をとって、「恥ずかしいよ、〇〇」という甘い言葉を貰ってから行動に移しているのだ。そう、わたしはオビトとは違…………−−



「お前、ほんとにうるせェ!」


ちっ。
うるさいのはどっちだよまったく。オビトの声のせいでわたしの溢れ出るリンちゃんへの想いが絶たれてしまったじゃんか。

わたしは隣を歩く今にも殴りかかってきそうな勢いの男を睨み付けた。


「邪魔しないでよ。今リンちゃんへの愛を再確認してんだから」


負けじと眉間にシワを寄せてみせるが、オビトは「うわ」と言ってドン引いてた。自分だってリンちゃんの写真にキスしてたくせに。


「お前…ほんとーっに気持ち悪いな」


はい出たー。
オビトはさ、自分の事を棚にあげてわたしのことをいつもいつもバカにしすぎなんだよね。ほんとムカつくんだけど!

まるで台所に突然湧き出たG様を見るような目付きでこっちを見てくるもんだからとりあえず鳩尾に一発な。


「…ってーなこの暴力女!」


見事にクリーンヒットさせたわたしの右手、よくやったな。褒めて遣わす。


「暴力女とは何よ。あんたより長く生きてんだからもっと敬え!」


そう言うとオビトはお腹をさすりながら舌打ちしてきた。クソ、なんて小僧なの。この膝小僧め!


「三年くらいしか変わらないだろ!お前みたいな奴は年寄りになったって敬いたくない」


はー、お年寄り大好き症候群がよく言うよ。絶対介護させてやろ。


「あんたほんと小さい頃から生意気だね!神無毘橋の時に助けてやったのは誰だったかお忘れになったのかしら?」


神無毘橋、と聞くと明らかにオビトの顔色が変わった。あの戦いで瀕死だったこいつを助けてあげたのに、なんて恩知らずなの!あの時わたしが駆けつけなかったらカカシと、それからリンちゃんさえも敵にやられていたかもしれないのに!


「あ、あれは……あの時の事は感謝は、してる」


あらやだ。なんだかしおらしくなっちゃったわ。もう一発必要かしら?


「だけどもう三年も前の話だろ。今それを持ち出すとか本当に性格わり…ーぐっ!」


やっぱもう一発な。

ゲホゲホとすごい勢いでむせ込んでるけど無視無視。オビトは昔から体は丈夫だからそんなに心配しなくても大丈夫…。


「…!!」


おおおっ!
突然わたしのリンちゃんレーダーが感知MAXになった!次の…次の曲がり角くらいだな!わたしの愛が溢れ出すぎてリンちゃんを引き寄せたんだな、こりゃ…。

いてぇとか何とか言ってるオビトをスルーしてわたしは曲がり角まで全力で走る。ニヤつく口が抑えきれず、彼女の名前を叫ぶとともにやっぱりわたしが抱き着いたのは女神様だった。


「きゃっ…!え、あ、〇〇さん?」


女の子らしい可愛い声を上げてびっくりしたリンちゃんだったけどわたしの顔を見るとすぐににっこり微笑んだ。なんだろう、ほんと女神かな。


「今日も可愛いわたしのリンちゃん!…と、はたけのカカシくん」


視界はリンちゃんでいっぱいのままがいいから顔を見ずにわたしは挨拶した。恋の敵は全員匂いで分かるからね。


「“の”は余計なんですけど…」


ほらな。このため息は畑の案山子だよ。ちくしょー、いっつもリンちゃんについて回りやがって…。ムカつくからあとでマスクの裏にオビトのヨダレつけとこ。


「ねー、リンちゃん。明日デートしようよー。任務ないでしょー?わたし暇だからさー」


リンちゃんの腰に引っ付いてだだをこねていると後から着いてきたオビトに引っぺがされた。カカシとオビトがいるとリンちゃんに触れやしない。


「えっ、でも〇〇さんいいんですか?さっきもミナト先生…火影様が呼んでましたけど…」


あー……そういやなんかそうだったような気もする。リンちゃんへの愛でわたしが上忍だったこと忘れてたわ。自分の任務さえ忘れさせる程のリンちゃんの存在ってまじ崇高。

それを聞くとざまあみろというふうにオビトがニヤニヤした。なんだよリンちゃんのストーカーのくせして。


「じゃあリンちゃんがチューしてくれたら任務やる」


オビトも呆れたようなカカシもムカつくからリンちゃんに甘えるように言うと彼女は赤面した。「なっ…」とか言葉が出なくなって焦ってるオビトはいつものように無視ね。


「もうっ、〇〇さんったらそればっかり…」


ああん、なんて可愛いのマイハニー。その照れ顔国宝級。マジやばい。可愛すぎて写輪眼開眼しそう。うちは一族じゃないけど。


「リン!こいつの言う事は聞かなくていいからな!」


うわ、超KY。ほんといつもわたしとリンちゃんのラブタイムを邪魔してくるなこの男。はやくうちは病発症すればいいのに。


「リンちゃん、こいつこそ無視していいからね。ただの嫉妬だから」


何故か怯えた様なカカシは置いといてわたしはリンちゃんの前にずいっと顔を寄せた。ちなみにオビトの事は分身で羽交い締め済み。おほほ!リンちゃん至上主義〇〇様を舐めないでほしいわ。


「だから、ねっ、お願い!」


リンちゃんはおどおどと瞳を揺らしてカカシを見たが、白髪スカし野郎はため息を吐いて腕を組んでそっぽを向いていた。オレは何も知らないからな、みたいな感じでほらほら、それがスカしてるんだよね。まあどうでもいいや。あとオビトの声はBGMだと考えよう。

わたしはにっこりしながら自分の頬を人差し指でつついた。ほんとは口がいいけど、それは二人っきりの時にしたいじゃん。


「リンちゃん、お願い」


優しいリンちゃんはこうしてしつこくお願いすればだいたいのことはしてくれる。まじ女神。

彼女はしばらく困った様に笑っていたが、引き下がらないでいると覚悟を決めたようにわたしを見てから素早く近付いて頬に唇を寄せた。軽いキスだったがそれでも彼女の柔らかい唇の感触はハッキリわかった。


「ちゃんと任務やらなきゃダメですよっ?」


ご臨終。ちーん

なんて日だ……。今日はわたしの命日かな?もうやり残したことはない…と考えたけどまだ唇同士が残ってたわ。

頬を赤く染めて上目遣いでこちらを見てくるリンちゃんにぎゅっと抱き着いた。まじ可愛すぎて死ぬ。


「明日からリンちゃんからの愛で任務頑張るから!ほんとリンちゃん愛してる!」


はあー。柔らかくていい匂いがして最高。同じ人間とは思えない。


「〇〇コラ!リンから離れろ!」


分身が消えて自由の身になったオビトがすぐさまわたしの腕を引っ張る。自分が出来ないからってこの男はほんとうるさいな…。

リンちゃんに抱き付けるのはわたしの特権!そしていつか唇にキスの特権も手に入れてみせる!


「〇〇さん、そろそろ離さないとあなたの大好きなリンの首が絞まりますよ」


畑のカラスよけに水を差されたけど今日は大目に見てやろう。なんて言ったってわたしは女神のほっぺチューを貰ったからな。リンちゃんのように大きな心で許してやろう。

わたしがリンちゃんを離すと確かに少し苦しそうな顔が目に入った。あん、わたしもリンちゃんの事で胸が苦しいのよ。

大丈夫?と(リンちゃんだけにみせるわたしのイケメンな顔で)問い掛けながら彼女の頭をナデナデするとリンちゃんははにかんでこちらを向いた。


「私も…〇〇さんのことは好きですよ」


…オーマイゴッド。
わたしの耳に愛の言葉が聞こえてきたぞ。鳥のさえずりの様な美しい声で…「〇〇を調子に乗らせたらダメだろ、リン!」…無視無視……。ああ、今日まで生きてて良かった。ありがとう女神様。

込み上げてくるとてつもない幸福感をどう表したらいいか分からなくてわたしはリンちゃんの手を握った。


「リンちゃん。大大大好き!」



外野の叫び声なんて聞こえない。わたしの視界にはいつもリンちゃんしか映ってないし、鼓膜にもリンちゃんの声中心にしか聞こえないから。

照れながら微笑むリンちゃんは今日も世界一可愛い。今も昔も、ずっとわたしの女神様!献身的なところも、優しいところも、ちょっと頑固なところもぜんぶ大好き!もちろん目も鼻も口ももれなく好き!

これからもその笑顔をわたしに見せてね。リンちゃん大好き愛してる!

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