- ナノ -


まさに晴天の霹靂だった。


いや、それ以上だ。この驚きと衝撃は快晴時に突然現れた雷雨以上に相当するものだ。


…と、多分目の前にいるマダラは思ってると思う。うん、絶対思ってる。だって凄まじい衝撃波を受けたみたいな顔してるもん。



「…柱間、お前何言ってるんだ?」


やっとの事で声を絞り出す。口から出たのは普段のマダラとは程遠い、小さな声だった。

笑うな…。笑ったらここで終わるのよ〇〇…。目を真ん丸にしていかにも驚きといった表情のマダラを前にわたしは顔に広がりそうになる動きをどうにか止める。


「だから、お前の事が好きだと言っているんだ」



マダラは真剣な顔付きで言い放つわたしを見て眉を寄せた。意味が分からない…。一体こいつは何を言っているんだ?って、そんな感じの顔。

そう。
わたしは今変化の術で柱間の姿になっているのだ。そしてその姿のままマダラに告白している!わたしの変化は里内で一番……いや、忍界一と言っても過言ではないくらい巧妙だ。触られるくらいなら術は解けないし…。何よりわたしは演技派忍者!………うっ、ヤバイ。今頃本物の柱間は火影室で大量の書類を前に嘆いているんだとか考えたらまた笑いがこみ上げてきた。

なんとか抑えて真剣な眼差しでマダラを見つめる。


「初めて会った時から…オレはお前が好きなんだマダラ。こんな事言ったらお前は戸惑うのは分かっていた……だがもう抑えきれない!」


切羽詰まったように言ってマダラの両手をとってぎゅうっと握り締めるとその手が強ばった。口を微かに開き、明らかに困惑しているマダラの表情。そりゃ突然森の中に呼び出されて友だちだと思ってた男に告白されれば驚きますわな。

うふふふふ!
こんなマダラ見た事ない!子どもの頃から側にいて初めて見た!なんなのその焦ったようなカワイイ顔は!はー、最高。生きてて良かった!この世界を造ったGODに感謝!アイラブ神!


わたしの顔…いや、柱間の顔を見つめて黒い瞳を揺らしているマダラは何と言ったらいいか分からないように唇を震わせてて、もうめちゃくちゃカワイイ。畳み掛けるようにその顔を見つめる。



「嘘でも冗談でもない…。オレはお前を愛しているんだ、マダラ」


いやホント嘘じゃないよ?わたしはマダラが恋人として大好きだし、いや、柱間もマダラの事好きだし。まあ友達としてだけど。

じゃあなんでこんなことしてんのって話になるんだけど、マダラの焦った顔が見たいってそれだけ。柱間に相談したら「オレに変化して告白でもすればマダラは焦るだろう!ハハハハ!」とか言ってきたから、頭良い!と思ってそれを行動に移してる。

いや〜、さすが柱間だよね。こんなに反応してくれるなんて思わなかった。マダラは何て言うのかな?断るにしても何て言うんだろう。俺はお前のことそんなふうに見れない!とかめっちゃ焦って言って来たらすごく



「俺も、お前の事が好きだったんだ」


カワイイよね!焦るマダラ最高!
まあそりゃそうだよね〜。柱間に告白されてオッケーするなんて事…−


「え?」



えっと、あれかな、わたしの耳は老朽化したのかな。何かおかしな事が聞こえた気がする。

今度はわたしが目をぱちくりさせながらマダラを見ると焦った顔からいつの間にか真剣な表情に変わっていた。


「俺だってガキの頃からお前が好きだった。まさかお前もそう思っていてくれていたなんてな…柱間」


え?
え?何?
ちょ、ちょ、ちょっと待って!手を握り返さないで!現実が呑み込めないよ!What!?



「ずっと隠し通そうと思ってた…。だが今お前の気持ちを聞いて……俺もそれを言う決意ができた」


アー、わたしの耳は大丈夫カナー。おかしくない。わたしの耳は正常だ。

だったらマダラはなんだ、柱間の事が、好きだったの?え、え、どうしよう。マダラの顔は真剣そのものだ。わたしに好きだと言ったのはもしかしてウソなの?

チチチチッという鳥の声が耳鳴りのように遠くから聞こえた。

いやわたしが焦っちゃってるじゃん!何なのこれ!


「いや、あの、マダラ、」


実は柱間じゃないんだけど、と続けようとしたが、突然マダラが足を掬ってくるものだから受け身も取れずにわたしは地面に尻餅をついた。男の人の体って尻餅ついてもこのくらいしか痛くないんだ、なんて考える暇もなく間発入れずにマダラが足を割って入ってくる。


「ならもう我慢する必要はないな?」


これはマズイ!なにがマズイって何かもう色々イケナイ!だってマダラの超かっこいい顔が迫って来てるんだもん!ヤバイよ!どうしよう!なんかもう分からないけどわたしの恋は今儚く終わったし、ついでに柱間許さない!ああ、MY GOD。軽率な行動から生まれてしまった悲しい結果をわたしはどうしたら良いのですか…。


動けない。

わたしは迫るマダラを目の前に、目を見開いて固まってしまった。 さよならわたしの愛しい人…――。



「……」


マダラとわたし…いや、柱間の唇がくっつく0.3秒前、突然マダラが動きを止めた。わたしは涙目になりながら開いた瞳を閉じられなかった。

すると、バッと音がする程素早く、いきなりマダラが顔を伏せた。


「…へ」


何事かと思って声を出そうとしたがか細い(柱間の)声しか出なかった。まさにぼーぜんとわたしがマダラを見つめていると、その顔が少しこちらを見た。



「…クククッ」



マダラは笑っていた。

え?今度は何なの?
わたしは訳が分からず頭の中を真っ白にしながらマダラを見続けた。さっきも真っ白になったから二回目だ。マダラは徐々に声を我慢出来なくなったようで最終的に声を上げて笑い出した。



「お前っ…ククッ……その、顔、…っ馬鹿じゃないか?…ハハハッ」


涙を浮かべる程笑うマダラを前にまだわたしは動けなかった。わたしもわたしで涙目なんだけど。え?どういうこと?

マダラはひとしきり笑うと袖口で涙をゴシゴシと拭った。



「変化してるのは分かってるぞ、〇〇」



マダラはそう言ってわたしを見たが、まだ笑いを堪えていた。

なんだ……そ、そういうこと?


「分かってたの?」


わたしは震える手をどうにか動かして術を解く。軽い音がして薄い煙に包まれると、なんだか懐かしい自分の体の感覚が戻った。


「最初から分かってた。分かっててやっていたんだ」


何故か面白そうに笑いながらマダラは言った。


「え、じゃ、じゃあ」


柱間の事好きだって言ったのは?あれは何だったの?そう聞く前にマダラの方が口を開いた。


「嘘に決まってるだろ。俺が柱間の事を好きなんざ、考えただけで寒気がする」


「で、でも!マダラめちゃくちゃ真剣だったじゃん!嘘に見えなかったんだけど!」


つい先程までのマダラは冗談を言っているように見えなかったし、そもそも冗談でもそんなことを言うような人じゃない。死ぬかと思ったよ、こっちは!

信じられなくて何だか泣きそうになりながら怒ったようにマダラを見る。



「酷い!わたしを騙して弄んだんだ!」


何とか泣きそうになるのを我慢してマダラに言うとその顔付きが変わった。

あ、マズイかも……。



「ほう?騙して弄んだ、だと?どの口が言っているんだ?」



うわ、ヤバ。これはヤバイ。
逃げろ!逃げるが勝ち!マダラが怒ったらわたしは手が付けられない。と言うより…―。



「どこへ行く?話はまだ終わってない」


わたしが腰を浮かせたのに気付いてマダラに手首を掴まれる。ヤバイ…。マダラの力に勝てる筈もなく痛みを感じる手首を気にしながらもその表情を伺った。


「あの、いや、これはね。出来心というか、なんというか…」


真顔になっちゃったよ!完全に怒らせた!
元々目つきの悪い暗い瞳をさらに鋭くしてこちらを見てくるマダラに向かって愛想笑いをするがもうダメかもしれない。


「ご、ごめんって!ちょっと意地悪したかっただけなの!ほんと、許し…―」



最後まで言い終わらないうちにマダラがわたしの上半身を押し倒した。堅い地面の感覚と冷たい温度に色々な意味で背筋が凍った。抵抗する前にマダラがわたしの手を引っ掴んで、地面に縫い付けられればもう動けない。



「お前には躾直しが必要なようだな、〇〇」



怖い怖い!そのニヤニヤがただの笑顔だった試しが無い。どうしよう、わたしはどうしたら良いのですか!

焦っているうちにマダラは誠に清々しい表情を浮かべたあとわたしの首筋に噛み付いてきた。



「いっ…!?」


本気だよ!この人本気で噛んだよ!恋人を!めちゃくちゃ痛いぃ!

血が出たのではないかと思うくらい痛かったが、その痛みが引かないうちにそこに生々しい感触がした。



「ま、マダラ!?」


舌の感触から何とか身をよじるが、マダラの屈強な体が覆いかぶさりびくともしない。



「お前こそ俺を騙そうとしたんだ、それ相応の報いを受けてもらわないとな」


言うが早いがマダラの唇が首筋からだんだんと下がっていく。

イヤ!ここ!森の中だから!



「か、勘弁してください!ごめんなさい、マダラ様ぁぁ!」



わたしの大声で辺りにいた鳥たちがバサバサ飛び立って行った。



―――――――――――

あとから聞いた話だけど、マダラは前々から柱間から聞かされていたらしい。

柱間め…!あいつ絶対酔っ払って作戦を全部話しちゃったんだ…!とりあえず会った時一発食らわせといた。もちろん股間にね。

悶絶してたけどわたしの痛みはそれ以上だった!森の中で……外でなんて有り得ないよ!



まあ、とりあえずね、軽率に行動するもんじゃないな。

わたしはこの時人生で初めて後悔というものを学んだ。あと恋人には逆らわないようにしようとも決めた。


でもマダラの焦った顔はカワイかった。それが演技だとしても。

次も諦めずにリベンジしようかなとも何度か考えたけどあの時の事を思い出してやっぱりやめた。平穏が一番だよね……。


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