大筒木編
-全ての始まりと-
翌朝、日が昇ってまもなく、カグヤとセンリは牢から出された。
硬い土の上であったにも関わらずセンリはスッキリとした顔で起きて伸びをし、カグヤはその横ですでに起きて立っていた。センリの羽織は綺麗に畳み返された。
陽光に目を細めながら男に連れられて二人は外に出た。
連れて行かれたのは高床式の住居で周りは柵で囲まれ、どうやらこの時代ではなかなか大きな屋敷のようだった。
住居につながる階段に若い男が一人座っていた。その男の前に二人は膝をつかされた。
「この者たちが天からやって来たと申すのか?」
長であろう座った男が家来の者たちに尋ねた。
「はい、光の落ちた場所からこの女たちが出てきました」
左右に立った槍のような者を持った男の一人が答える。
「その者たち、名は何と言う」
センリはカグヤを見たが、カグヤは何も答えない。
「答えぬか!このお方は祖の国の皇テンジ様におわせられるぞ!」
「彼の国の回し者に違いありません。締め上げて…」
家来の男達が声を荒げる。センリは慌てて口を開く。
『私はセンリって言います!あとこの方はカグ…』
センリが言い終わらない内に突然カグヤが立ち上がり家来の男達を見た。すると男達は睡眠術にでもかかったように間髪入れずに気を失って倒れてしまった。
「ワラワの名はカグヤ。神樹を見守る者」
カグヤが足音もなく長であるテンジに近づき目の前に立つ。
「カグ…ヤ…」
テンジも他の者と同じように瞳を閉じ倒れてしまった。
『カグヤ…何をしたの?』
カグヤはゆっくりとセンリのほうを振り返る。センリはカグヤの灰白色の瞳を見返す。
「…そなた…ワラワの目を見ても倒れぬとはやはり…」
カグヤは一人呟いた。
「この者たちが次に目を覚ましたらこれまでのことは忘れている。新たな記憶を植え付けた」
『記憶を消したって事?』
カグヤはセンリを見つめたままだ。
『カグヤ…一体あなた…』
にわかには信じられなかったが、確かに皆目を覚ましたときには態度が打って変わり、テンジはカグヤを側室として、センリを正式な友人として迎え入れたのだ。
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