- ナノ -


大筒木編

-全ての始まりと-



牢の中で女性と二人きりだった。
女性は近くで見るとセンリより顔一つ分以上は背が高く、まるで感情のない人形のような表情だった。牢屋に入れられることがどうとでもないという感覚はセンリと同じようだったが、それ以前にこの状況にさえ興味が無いように見える。

センリは話しかけようとしたが、思いがけず先に口を開いたのは女のほうだった。


「そなた…なにか特別な力を持っていますね」
抑揚のない、しかしどこか憂いを帯びた声だった。


『えっ?あ…んん、特別というかなんというか…ちょっとね!それより、あなたはどこから来たの?名前は?』

女性はセンリ自身より、センリの持つ力に興味があるようだったが、センリの方は言葉に乗せられた感情には気付かず、穏やかな声音で名前を尋ねた。女性はセンリをじっと見つめ、幾らかの時間が経った後に答えた。


「ワラワの名は…カグヤ」

『カグヤ、ね?竹林にいたし…竹取物語のかぐや姫みたいだね!…って、知らないか』

カグヤは何も言わず、朗らかに笑うセンリを見ていた。


『私はセンリだよ。よろしくね』

センリは右手を差し出した。カグヤは訳がわからず、センリをじっと見た。


『ほら、握手だよ!』

センリがにっこりするとカグヤはおずおずと手を差し出し、二人は握手をした。センリは体温が低めだったが、カグヤの手はそれよりもずっと冷たかった。


『私たち捕らえられちゃったけど…でも、大丈夫だよ!明日、きちんと話し合ってみよう。わけを説明すればきっと大丈夫だから』

カグヤは何も言わなかった。
センリは大きく欠伸をした。


『もう夜中だよね…。さすがに眠いや。眠れなさそうなら私の羽織を貸すよ。私はどこでも寝れるから大丈夫!ほら、すごく綺麗な髪でしょ?汚れたら大変だから』

センリは羽織を脱ぐといそいそとカグヤの足元に広げて、自身は冷たい牢の上に寝転がった。


『カグヤ、とりあえず私は寝るね。おやすみ…』

カグヤはその表情を崩さずにの様子を見ると自分もそっと腰を下ろした。


「(この者の素性すら分からないというのに、早速仲良くなってどうする…)」

『(えっ、ごめん、つい…でも彼女の事ももっとちゃんも知らないと、さ)』

頭の中に響く声に返すが早いか、センリはすぐに寝息を立てて眠ってしまった。
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