大筒木編

-ハゴロモの死と隠された呪い-



『……うっ………』


ハゴロモが息を引き取ったのとほぼ同時にセンリの頭を謎の激痛が襲う。耐えきれず、センリは床に手をついた。頭部を、硬い何かで思い切り殴られたような酷い痛みだ。

「センリ!?どうした!」


アシュラが突然のセンリの苦痛の声に気付き、駆け寄る。しかしセンリはそれに返事をする事が出来なかった。


『(な、なに?体が熱い………息ができない…――!)』


センリはハッハッと短い呼吸を繰り返しながら、ハゴロモの横に倒れ込んだ。


「一体どうしたセンリ!」


アシュラが慌てて叫ぶのがひどく遠くから聞こえた。センリはそこで意識を失った。



――――――――――――

………センリ………



自分を呼ぶ声がする。


……センリ…………


まぶたが重い。体がとてもだるい。



「センリ!」


今度は嫌にはっきりと聞こえた。
センリは重たい体に力を入れ、なんとか瞼を開く。


「目を覚ましたか、センリ」


白銀のとても大きな鳥。カルマだ。


『カル、マ………』


センリはゆっくり起き上がり、辺りを見回す。そこは見慣れた、センリの精神の中の白い空間だった。


「センリ、時間が無い。目覚めたばかりの頭をすぐ回転させてよく聞け」


なぜかカルマは切羽詰った様子だった。とても珍しい。

「どうやらカグヤに、何かの呪いをかけられていたようだ」


センリは目覚めたばかりの頭をフル回転したが、全く理解出来なかった。


『の、呪い?どういうこと?』

「胸元を見てみろ」

センリはまだ意味がわからなかったが、咄嗟に自分の胸元を見る。するとそこには今までになかった黒い、何かの印があった。


『なに、これ』

「呪印だ。おそらくカグヤが仕掛けたものだ」


カルマが少し早口で言った。センリはカルマを見上げる。


「恐らくあの時のカグヤとの戦いの時……なにかの呪いをかけられたのだ。十中八九ハゴロモが死んだ時にそれが発動するように。いや、ハゴロモ自体にかけていたのかもしれぬ。ハゴロモの命が尽きると同時に作動するように、と」

『一体どういうこと?』

「おそらくこれは何かの封印術だ。最近異常に眠かったのはこのせいだったのかもしれない。かなり我の力を押さえ込まれている。というより…我を御主から引き離そうとしているようだ」


カルマはなぜか少し苦しそうだ。なにかに耐えているような表情だった。


『どうすればその呪いが解けるの?』


センリが慌ててそう聞くが、カルマは相変わらず厳しい表情だ。


「全く分からぬ……。かなり強力な術だということは分かるが、恐らくもう手遅れだ。我の予感が合っていたら、あと幾らかもしないうちに我と御主は引き剥がされてしまうであろう」

『ええっ!?そんな―――』


センリは突然の事に頭が追いつかない。もし引き剥がされてしまったら……――。


「我とセンリが呪いによって引き剥がされてしまった後、一体どうなるか我にも分からぬのだ……。そのままあの世界に残るのか、どちらも死ぬのか……光になってしまうのか……。光になってしまったら、見つけるのが非常に困難になる。光になるという事は、時空をさ迷うということだからな…」

『そんな………たったいま、ハゴロモと約束したばかりなのに』


センリは拳をギュッと握る。

未来を、アシュラとインドラの魂を、見守ると約束した。約束したのに。


「っ………まずい、センリ。かなり強い、力で引っ張られている」



センリの心臓がドクンと脈打つ。


『な、に……』


呼吸ができない。


「センリ、大丈夫だ。御主は死なせない。光になってしまったら我が必ず……!必ず、見つけてみせる」


苦しい。


息がつまる。


嫌だ、目を閉じたくない。


『わ、た……し…は……』


まだ、やる事がある。


もう、後悔するのはいやだ。


いやなんだ。


待って、


『ま、だ……………………』



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