大筒木編
-全ての始まりと-
ついにその時が来た。
その日の夜、センリが山のふもとで満天の星の下空を見ていると、突然それはやってきた。
「(センリ、あの光だ!あれを追え!)」
センリはハッとして夜空を見上げた。一瞬星が瞬いたのかとも思われたが、それは消えることなく空を飛び続ける。恐らくこの地上にいるものは隕石か何かだと勘違いしたに違いない。
『あれは…――?いや、とにかくあの光を追えばいいんだね?』
センリはその輝きを確認しながら、それを追っていった。
光は山の反対側の竹林へと入っていったように見えた。センリはひとつ深呼吸して竹林へと向かった。
『あれは…』
まばゆい光はだんだんと消え、センリは唾を飲んだ。
『(まるで私が来たときと同じ…)』
それを包んでいた光が消え、辺りを照らすのはまた星々の光だけになった。そこ立っていたのはセンリよりも少しくすんだ銀色の髪と、白い目を持った女性だった。センリよりかなり背が高い。
『(人間…?)』
その女性は少し驚いたようにセンリを見た。
『あの…あなたは…』
センリがその者に話しかけようとしたその時だった。
「貴様ら、何者だ」
ドヤドヤと足音がして十人ほどの人間が向かってきた。おおかたセンリと同じように光を追ってきたのだろう。
『いや、私は…』
「怪しいことこの上ない。貴様たちを捕らえてテンジ様の元へ連行する。抵抗はするな」
センリの言葉を遮り、隊長であろう男が前に進み出る。どうやらセンリも仲間だと思われているようだった。二人は男たちに囲まれ連れて行かれた。センリは地に着くほど長い女性の髪を見ながら、抵抗はせずに男たちについて歩いた。
『どこへ行くんですか?』
センリが隣を歩いている男に話しかけると、男はビクっと体を揺らした。槍のようなものを構えてはいるが、どこか怯えたようにも見える。殺されるとでも思っているのだろうか。
「…ソの国の長のところだ」
聞いたこともなかった。というよりセンリは国があることさえ知らなかった。
その後はひたすら歩き続け、二つほどつ丘を越えたらソの国に到着した。修業の甲斐あってか、センリはどんなに歩いても疲れることはなかった。
「テンジ様はもう御就寝なさった。明日一番に貴様らをテンジ様に会わせる。今日はここで寝るのだ」
話を聞く限り、テンジ様、というのはその国の長の事だろう。そう言われて案内されたのはかすかな灯りしかない牢だった。
『(牢屋か…)』
センリは臆することもなく牢屋に入った。興味深げに牢の中を見回すセンリとは対照的に、女は顔色一つ変えることはなかった。むしろ堂々とした面構えだ。
「この建物の入口には見張りをつける。逃げ出そうなんて考えるなよ」
ガチャンと大きな音を立てて男が鍵をつけ、それを服に入れながら牢を出て行った。突然無音になった。
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