- ナノ -


大筒木編

-ハゴロモの死と隠された呪い-



それからの日々は瞬く間に過ぎ去った。

悲しかった。

インドラはみんなの前から姿を消した。だが誰も探そうとしなかったし、恐らくインドラもそれを望んでいた。

センリもインドラを探さなかった。ただ信じていた。待っていればいつかインドラは帰ってくると信じていた。もしここに帰って来なくても、インドラは分かってくれる、と。

後悔はしなかった。ただ、信じていた。この村を守る事が、忍宗の絆を紡いでいくことが、自分のするべきことだと思った。


皆、インドラがいなくなった事を気にしていた。だからこそセンリは笑った。


最初は、やはりみんなの気分は沈んでいた。

だがセンリの笑顔を見て、努力を惜しまぬアシュラを見て、村は徐々に活気を取り戻していった。


数ヶ月もすれば村は元通りになった。


アシュラはハゴロモに変わり、里を治めた。みんなアシュラに付いていった。落ちこぼれだったアシュラはみんなに長として認められたのだ。


その後すぐにアシュラは旅先で出会ったあの娘と結婚した。名をアカリといった。


時間はみんなの気持ちを元に戻していった。

次の頭領はアシュラなので、それを支えるのはセンリではなくアカリだ。センリはあまり口は出さず、アシュラのやる事を見守った。

アカリもアシュラもセンリに頼ることもあった。そういう時は二人を助けてやる。


そうやってどんどん時間は過ぎていった。


それに伴ってハゴロモは老い、だんだんと弱っていった。

それはセンリがインドラを探さない大きな要因であった。インドラが消えたすぐ後にセンリが探しに行こうとしたが、ハゴロモは首を振った。カルマさえもそれを望まなかった。

カルマはセンリに、ハゴロモの側にいて欲しいと伝えた。六道の力をアシュラに引き渡してからのハゴロモの老弱は誰もが分かっていた。村の人々からも、アシュラからも、ハゴロモと共にいて欲しいと望まれた。センリはそれを断らなかった。インドラがどこかに行ってしまったのは自分のせいでもあったが、ハゴロモはもう力を使って前の様に長い旅もできない事も分かっていた。

苦渋の決断ではあったが、センリはハゴロモの側にいる事を選んだのだ。


段々と老いていくハゴロモ。それにひきかえセンリは少しも変わらない。それは外見だけではなく中身もそうだった。ハゴロモもセンリが側にいる事を強く望み、センリはずっとハゴロモに寄り添っていた。

みんなが明るくなる出来事もあった。


ハゴロモに孫ができた。


アカリは三人の子を産んだ。

アシュラもハゴロモも村の人々はとても喜んだ。

三人とも元気に成長した。今度はセンリが育てる必要はなかった。センリは、三人の子に愛情を与える家族がいてよかったと、心からそう思っていた。

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