大筒木編
-愛-
センリが急いで山を降りると、やはりインドラがアシュラたちと戦っていた。
大きな青い炎に包まれた巨大な鎧武者が、これまた巨大な剣で、宴を行っていた広場に攻撃を仕掛けていた。その巨大なチャクラの塊には見覚えがあった。カグヤと戦った時に同じ形状のものをハゴロモが作り出していたからだ。かなり強大なチャクラを纏っているその鎧武者は、須佐能乎という。その須佐能乎の額にはインドラの姿があった。
センリは広場に急ぐ。
センリがやっと近くまで辿り着くと目線の先で、アシュラが大きな鎧武者の剣を止めていた。背には求道玉が浮かんでいる。ハゴロモから受け継いだ六道の力だった。
『アシュラ!インドラ!』
センリが二人の間に駆け寄る。
アシュラが驚いたようにセンリを見る。
アシュラはハゴロモや村の人々を守るように、インドラの攻撃を止めていた。
ハゴロモと村人達は円を作るように手を繋ぎあっていた。一人の力は弱くとも、皆の力を合わせれば目の前の巨大な力に対抗できる事を、ハゴロモもアシュラも知っていた。
センリは頭上にいるインドラを見上げる。インドラはこちらに目もくれず、むしろその体からも須佐能乎からも、復讐心とも見える殺意のようなチャクラが感じられた。
『インドラ!やめて!!』
センリは咄嗟に大きな声で叫ぶが、その声は届かない。
すると手を繋ぎあっている人々からアシュラに、チャクラでできた手が伸びてきた。それはアシュラの背中を押し、アシュラに力を与えた。
「なん、だと…」
アシュラが自分の力に勝てるはずはないと思っていたインドラは目を見張る。アシュラはみんなの力で鎧武者の剣を押し上げた。瞬間、須佐能乎がよろける。
センリは轟々と響く爆風に耐えながらハゴロモたちのいるところに白い守りの結界を張る。
そしてみんなの力は大きな千手観音として現れた。それは巨大な、無数の腕を持つ仏像のようなもので、鎧武者さえも小さく見える。腕は文字通り千本はある。
アシュラがその仏像の上にいた。
「兄さん!!!」
「アシュラァァ!!」
二人が叫び、お互いに攻撃しようとする。
「これが絆の力だ!!」
しかしアシュラの方が一手早かった。
無数の腕が鎧武者に降りかかる。とてつもない衝撃波がセンリを襲う。瞬時に白いチャクラがセンリを守った。遠くでインドラが攻撃を受け、叫ぶのが分かる。
センリは声が出なかった。
鎧武者は地面に叩きつけられ、爆発し、そして……消えた。
それはインドラの負けを示していた。
『インドラ……!』
千手の仏像も消え、センリは巻き起こる砂煙を払い、走り出し倒れるインドラに駆け寄った。
『インドラ!』
「センリ………」
センリがインドラの肩を掴み顔を覗き込む。
インドラが痛みに顔をしかめながら、心配そうなセンリを見る。何とも表現しがたい、何かに耐えるようなインドラの表情に、センリの心が悲しみに震えた。
「セ、ンリ…」
センリの大きな瞳から涙が溢れていた。どういう涙なのか、センリ本人も分からなかったが、どうしようもなく哀しかった。涙は止まる事を知らず次々と地を濡らしていく。インドラに何か言わなければならないのに、センリの唇からは、言葉が出なかった。
インドラは驚き、そして唇を噛み締める。
「やはり…忍宗など………忍宗などがあるから…――」
「兄さん!」
僅かな、インドラの呟きは、駆け寄ってきたアシュラの声と重なり、センリの耳には届かなかった。
「寄るな!」
インドラは怒り満ちた声音で叫ぶ。アシュラが立ち止まり、悲しげにインドラを見る。
「アシュラ………俺はお前を決して認めない!忍宗を……認めない!」
インドラが声を荒らげる。センリはハッとしてインドラを見つめる。
『ま、待って、インドラ……』
しかし、次の瞬間には何も無くなっていた。
センリの手は虚しく空を切った。その手はなにも掴めはしなかった。そこにあるはずの温もりは、なかった。
『そん、な』
インドラは消えた。
父たちの前から、弟の前から、そして………センリの前から。
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