大筒木編
-愛-
「忍宗の後継者は……アシュラに任せる」
人々に動揺が走り、ざわめいた。しかし一番動揺していたのはアシュラだった。
センリの予想は、二人で、だと思っていたが、ハゴロモはアシュラを選んだ。
「なっ、なぜです。父上!私には兄さんほどの忍宗の才はありません!」
アシュラがハゴロモに飛びかからんばかりに反対する。
「…なぜ私では不満なのかその理由をお聞かせください」
インドラが静かにハゴロモに問う。
「お前に任せた村は今壊滅状態にあるとの報告を受けた」
「そんな…なぜ」
アシュラが驚きの声を上げ、インドラが眉を潜める。
「何をしたのか話してみよ」
ハゴロモがインドラに説明を求める。
「私がやった事はアシュラと同じです。望み通り村の者達に水を与え、神樹を昇華した。ただ違うのは…私は一人でやったということです」
インドラが言った。
「それが結果を大きく変えたのだ。村の人間たちは水の利権を争い自らの身を滅ぼしたそうだ。楽をして手にした幸福は長続きはしないものだ。だがアシュラは村の人々とともに苦難の道を歩いた。苦難の末に手にした幸福はそう簡単には崩れはしない」
ハゴロモは二人に言い聞かせる。センリは少し心配そうに二人を見守る。
「インドラ、お前には写輪眼という素晴らしい力がある。アシュラは成長したといえどまだ力は足りない。これから先忍宗を支えていくためにアシュラに力を貸してやってくれ」
ハゴロモはやはり二人が協力することを望んだ。
しかしインドラは唇を噛み締め、何も言わず立ち上がる。
『インドラ!』
センリの声にも立ち止まらず、そのまま練習場を出ていってしまった。二人のインドラの友人が後を追う。
[ 69/78 ][← ] [ →]
back