大筒木編
-愛-
アシュラはこの一年間のことを話して聞かせた。
アシュラの訪れた村は神樹の水源に頼っていた。だがそれは同時に村人達たちの体も蝕んでいたのだ。このまま行けばいつか村人達は全員死んでしまう。
そう思ったアシュラは井戸を掘ろうと考えたのだった。
しかしその地は硬く、岩のような土で深く掘るにはかなりの時間がかかった。
初めは遠巻きに見ていた村人達だったが、アシュラの根性に負け、みんなで井戸掘をはじめたのだ。
センリはハゴロモと罪滅ぼしのための旅をしていたことを思い出した。初めは馬鹿にしていても根気よく作業を続けていればいつしかその者達も心の強さに根負けし、同調し、協力してくれるのだ。
そこでアシュラは村人達に忍宗を教え、広め、全員で協力して井戸を掘ったのだ。
そしてついに井戸は完成した。
水が湧き出、神樹の水源は必要なくなった。村は自分たちの手で、新しく蘇ったのだ。
「そうか……お前の広めた忍宗が人々を救ったか」
ハゴロモは嬉しそうにアシュラに言う。
「ハイ!」
アシュラも笑顔で返事をし、娘を振り返る。村人達は皆笑顔だった。
ハゴロモは隣に立つセンリを見上げる。センリはハゴロモに向かって微笑み、頷く。ハゴロモはセンリの考えを読み取った。
「……ではこれより、忍宗の後継者を発表する」
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